<評>歌舞伎座「九月大歌舞伎」 競い合う猿之助、幸四郎

2020年9月11日 08時05分
 先月に続いて四部制の公演。第二部「色彩間苅豆(いろもようちょっとかりまめ) かさね」が歌舞伎味たっぷりでおもしろい。ことに市川猿之助のかさねに真女形とは違う味があっていい。クドキには一途(いちず)な恋の熱情と、男に裏切られ恐ろしい因果にからめ取られる哀れさとが濃厚ににじむ。祟(たた)りによって変貌してからは、与右衛門とからむ細かい動きや見得(みえ)の形が巧みで、ヌルリとした感触の異様さ、不気味さが漂う。松本幸四郎の与右衛門と、二人のイキがよく合っている上に、芸で競い合う気分が感じられて見ごたえがある。
 第一部は「寿曽我対面(ことぶきそがのたいめん)」。尾上松緑の曽我五郎が隈(くま)を取った顔も姿も力強く充実している。中村錦之助の十郎はまことにおっとりとしていて得がたい古風さ。非常時とていたしかたないが、先月と同様、感染対策のために本来は花道でする芝居を本舞台の下手でするのがいかにも窮屈で口惜しい。中村梅玉の工藤、中村魁春の大磯の虎がさすがに立派な芸格を見せる。
 初代中村吉右衛門を顕彰する例年の秀山祭に代えて、今回は第三部で「秀山ゆかりの狂言」を謳(うた)い「双蝶々曲輪日記(ふたつちょうちょうくるわにっき) 引窓」の濡髪(ぬれがみ)を当代吉右衛門が演じる。尾上菊之助初役の与兵衛は、母との絵姿のくだりでたっぷりと深い情を見せる。
 第四部は「映像×舞踊 特別公演」と銘打って坂東玉三郎の口上から始まる。まず映像と実演を取り交ぜてセリなどの舞台機構の紹介があり、続いて二〇〇五(平成十七)年の「鷺娘(さぎむすめ)」の映像を上映。映像と連結するようにしてその一部分のみを踊る。カーテンコールまで、たった一人で観客を楽しませようという趣向のバラエティー。二十六日(十七日は休演)まで。 (矢内賢二=歌舞伎研究家)

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