「値下げおじさん」は大衆に優しい? 消費増税に言及、弱者切り捨ての恐れ 菅義偉官房長官
2020年9月11日 10時32分
<自民党総裁選の候補者のビジョンは 東京工業大・中島岳志教授に聞く(中)>
政治家の著作や発言などから特徴を分析した著書「自民党」がある東京工業大の中島岳志教授(政治学)に自民党総裁選候補の政策やビジョンを聞くシリーズ。2回目は、菅義偉氏(71)に迫る。(三輪喜人)
◆「大衆の欲望に敏感」
安倍政権の継承を掲げる菅氏。競争社会で自助努力に任せる「小さな政府」を目指して、人事権を巧みに使い、忖度と自主規制で霞ケ関を動かしてきた。元号の発表で「令和おじさん」と呼ばれたが、中島さんは「大衆の欲望に敏感な『値下げおじさん』」と分析する。
中島さんによると、菅氏は国土交通大臣政務官時代、東京湾アクアラインの料金を値下げして、交通量やETC利用率を増やした。成功を収めた後、小泉政権の竹中平蔵総務大臣の下で副大臣を務め、構造改革の手法を熟知。NHK改革で受信料の値下げを迫ったり、携帯電話料金の4割値下げに言及したり、値下げを切り札に既得権益の解体に力を注いできた。官から民へという考え方は、日本維新の会とも距離が近い。
「国の基本は、自助・共助・公助」と総裁選で訴えた菅氏。政策集では、アベノミクスの継続や行政のデジタル化を進める「デジタル庁」の新設など縦割り官庁の構造改革を主張する。会見では、携帯電話料金の値下げにも言及している。
◆消費増税は「必要」
総務大臣時代には、返礼品がもらえるふるさと納税を導入。カジノを含む統合型リゾート施設(IR)や、沖縄を振興するディズニーランド誘致など大衆迎合的な政策を出してきた。庶民の味方のようにみえるが、一般人に寄り添う施策が取られるかは不透明だ。「自助を強調するのは、たたき上げでここまで来たという自負があるからではないか。社会的弱者は公助に甘えていると切り捨てられないかを注意深く見ていく必要がある」と中島さん。
10日夜には、総裁選に立候補する石破茂元幹事長(63)、岸田文雄政調会長(63)とともにテレビ東京の番組に出演。消費税が将来的に10%より上げる必要があるかの質問に「○、△、×」で答える場面では、石破、岸田両氏が「△」と答える中、菅氏のみ「○」を挙げた。
菅氏は「なかなか、引き上げるという発言はしない方がいいだろうと思った」とする一方、「これだけの少子高齢化社会で、頑張っても人口減少は避けることはできない。将来的なことを考えたら、行政改革は徹底して行った上で、国民にお願いをして、消費税は引き上げざるを得ない」と語った。
◆官僚を使う手法を国民にも?
安倍首相との違いは、国家観。安倍首相は、憲法改正や歴史認識など価値観の問題に力を入れてきたが、菅氏にそこまでのこだわりはみられず、お金の分配や、人事のパワーゲームに注力してきたという。
安倍政権下で成立した特定秘密保護法やテロ等準備罪(共謀罪)を使えば、政府批判や行動監視を強めることもできるといい、「これまで官僚に使われていた忖度の手法は今後、国民の側に向けられる可能性がある」と指摘する。
中島岳志(なかじま・たけし) 1975年大阪府生まれ。京都大大学院博士課程修了。専門は南アジア地域研究、近代思想史。『中村屋のボース』で大佛次郎論壇賞などを受賞。
菅義偉(すが・よしひで) 71歳、秋田県出身。衆院神奈川県2区選出で当選8回。内閣官房長官や総務大臣などを歴任。総裁選の挑戦は初めて。
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