米19年目の9・11 「最前線の人間ほど犠牲に」 テロ被害の男性、政府のコロナ対応に危機感

2020年9月12日 05時55分

昨年5月、ニューヨークの9・11記念館であいさつするジョン・フィールさん=本人提供

 2001年9月の米中枢同時テロで世界貿易センタービルが倒壊したニューヨーク。19回目の「9・11」を迎えた今年、街は新型コロナウイルスの感染爆発という新たな試練に直面した。とりわけ倒壊現場の粉じんで体を病んだ人々の危機は深刻だ。「最前線の人間ほど犠牲になる」。2つの悲劇の経験者からは、テロとコロナの被害を重ねる声が聞こえてくる。(ニューヨーク・杉藤貴浩)

◆最悪の1週間

 毛布を9枚かぶっても悪寒が去らない。呼吸が苦しく、体温は上がり続けた。ベッド脇の看護師が「集中治療室(ICU)に連れていったほうがいい」と医師に告げたのを覚えている。

今年3月、新型コロナウイルス感染で入院したジョン・マルモンドさん=本人提供

 ニューヨークの商品取引所で働くジョン・マルモンドさん(53)は今年3月、新型コロナウイルス感染で入院した。峠を越しても1日1回、力を振り絞ってトイレに歩くだけの日々。今は回復したが、「最悪の1週間だった」と振り返る。
 働き盛りのマルモンドさんが命の危険にさらされたのは、これが初めてではない。2年前、乳がんを両胸に患い、切除手術と皮膚が紫に変色するほどの放射線治療を受けた。男性には珍しいがんだが、テロの現場で有毒な粉じんを吸い続けた人々では数十の報告例があるという。
 19年前、マルモンドさんの職場も煙を上げ続ける現場から数百メートルの近さにあった。「原油や金属などの必需品を扱っていたので、周辺では最も早いテロ6日後に再開した。国は空気は安全だと言っていたから」

◆科学を軽視

 だが、後に米環境保護庁の元長官が当時の見解の誤りを認めるなど、広範囲に飛散した粉じんと健康被害との関係が明らかに。マルモンドさんも国からの補償を受けた。今年6月の国の調査では、現場で救助にあたった消防や警察、周辺住民など対象者10万5000人余りのうち、2割近い1万9000人以上ががんになり、1000人以上が亡くなっている。
 「今回のコロナでも、政府はもっと多くの命を救えたはずだ」。19年前、テロ現場のがれき回収に携わり、落下した廃材で足を骨折したジョン・フィールさん(53)は憤る。「トランプ大統領は科学を軽視し、周囲も忠告せずに被害を拡大させた」

2001年9月11日、崩壊した世界貿易センタービルの煙や粉じんで覆われたニューヨークの街=ロイター・共同

 テロ以降、粉じんによる病気に苦しむ人々のための基金設立に奔走し、新型コロナ拡大後は病院や老人ホームなどの最前線にマスクや食料などを届けてきた。3月には自身もコロナに感染して入院した。「テロ関連の患者はみんなおびえている。がんになる前にコロナで死んでしまうのかと」

◆行政は補償を

 実際、テロ現場近くの法律事務所で9・11被害者を支援してきたマイケル・バラシュ弁護士(65)は、粉じんによる病気を患っていた人々がコロナにもかかって死亡した例をすでに30近く把握した。コロナでも、被害の割合が高いのは医療従事者や消防士、交通機関や小売店などの現場に立たざるをえない人々だ。
 バラシュ氏は、9・11と同様、行政がこうした人々を対象とした補償基金をつくることを訴えている。「19年前に空気は安全だとうそをつき、今回のコロナも過小評価した政府は、教訓を学ぶべきだ。最前線の人々を守らなければ、新たな危機が来た時もわれわれは無力だろう」

◆「グラウンド・ゼロ」で追悼式典、遺族ら参列

 【ニューヨーク=杉藤貴浩】約3000人が犠牲となった2001年9月の米中枢同時テロから11日で19年を迎えた。崩壊したニューヨークの世界貿易センター跡地「グラウンド・ゼロ」では、遺族らが参列する追悼式典が開かれた。
 世界貿易センターでは、ハイジャックされた旅客機2機が北棟と南棟の2棟に相次いで突っ込んだ。式典は、1機目が衝突した午前8時46分(日本時間午後9時46分)に開始。黙とうの後、犠牲者の名前が順に紹介される。今年は新型コロナウイルス感染拡大の影響で、現場での読み上げから事前録音した音声を流す形式に変更された。
 テロにより、センターのビル内部にいた人々や救助にあたった消防士ら2700人以上が死亡。また、ビル倒壊による有害な粉じんが飛散した影響で、現場作業者や周辺の労働者、住民の一部にもがんやぜんそくなどが発生。患者の確認件数は現在も増え続けるなど、被害は長期化している。

米中枢同時テロとは 2001年9月11日、ハイジャックされた旅客機4機のうち2機がニューヨークの世界貿易センタービル2棟に突っ込み、ビルは崩壊。3機目は首都ワシントン近郊の国防総省に激突、4機目は東部ペンシルベニア州で墜落した。死者は日本人24人を含む約3000人。首謀者の国際テロ組織アルカイダ指導者ウサマ・ビンラディン容疑者は11年5月、パキスタンで米部隊に殺害された。

関連キーワード

PR情報

国際の新着

記事一覧