敵基地攻撃能力は「必要」 安倍首相が談話「安保政策、年内結論を」

2020年9月12日 05時50分

 安倍晋三首相は11日、ミサイル防衛に関する新たな安全保障政策の談話を発表した。敵国のミサイル攻撃を防ぐため「迎撃能力」を上回る対策を検討し、与党と協議して年内に結論をまとめると明記した。専守防衛の安保政策を転換し、ミサイルが発射される前に相手国の基地をたたく「敵基地攻撃能力」の保有検討を、事実上促す内容だ。首相は既に米国にもこうした考えを伝えている。退陣する首相が次期政権の安保政策を縛りかねない懸念がある。
 首相は談話で、北朝鮮の新型ミサイル開発などで、安保環境が厳しさを増していると指摘。敵基地攻撃能力との表現は使わなかったが「迎撃能力を向上させるだけで国民の命を守り抜くことができるのか」と従来の防衛政策に疑問を投げかけた。「ミサイル攻撃の可能性を低下させることが必要ではないか」と強調し「年末までに、あるべき方策」を示すとした。
 新方針に関する協議は、憲法の範囲内で行い、専守防衛の考え方や日米の基本的役割にも変更はないとも強調した。政府は従来、敵基地攻撃能力について、憲法上は保有を認められるが、専守防衛の観点から政策判断として持たないとの立場を維持してきた。
 談話は閣議決定を経ず、政府公式見解ではない首相個人の認識を示す形式を採ったが、政治的な影響力はある。首相によると、この日を含めて国家安全保障会議(NSC)で5回議論した。自民党内には「辞めていく首相が方針を決めるのはおかしい」(防衛相経験者)などの異論がある。
 首相は談話発表後、官邸で記者団に「(次の内閣を)縛ることにはならない」と強調したが「しっかり議論してほしい。国民の生命と財産を守る議論をしていくのは当然で、最大の責任だ」と話した。
 安保戦略を巡っては、首相が6月18日の記者会見で、地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」の配備撤回に伴い、敵基地攻撃能力の保有を含む新たな戦略を検討する意向を表明。これを受け自民党は8月、「相手領域内でミサイルを阻止する能力」の保有を検討するよう政府に提言し、首相は「しっかりと新しい方向性を打ち出す」と前向きな姿勢を示していた。(上野実輝彦)

◆「事実上の職務執行内閣、憲法の規定から外れる」西川伸一・明大教授


 安倍晋三首相は11日の談話で、年内に新たなミサイル防衛政策をまとめると明記した。これについて、明治大の西川伸一教授(政治学)は、総辞職後の内閣の職務を定めた憲法の規定に反する恐れがあると指摘した。(聞き手・上野実輝彦)

西川伸一教授

 |辞める首相が重要政策について談話発表することは適正なのか。
 「憲法七一条では、総辞職後の『職務執行内閣』は新首相任命まで職務を行うと定めているが、その職務は行政の継続に必要な事務処理にとどまり、新たな政策に取り組むべきでないというのが通説だ」
 「安倍首相は既に辞意を表明しており、実質的には職務執行内閣だ。にもかかわらず、従来の安全保障政策を転換させかねない方針策定を、期限を切って次期政権に求めるのは、憲法の規定から外れている」
 |首相の狙いは。
 「6月の記者会見で、敵基地攻撃能力保有を含む新たな戦略を検討する意向を表明しており、それにけじめをつけるためでは。政権の遺産にしたい思いもあるかもしれない」
 |次期首相はどう対応すべきか。
 「安倍首相が定めた期間にこだわらず、敵基地攻撃能力保有に慎重な公明党との協議や国会での論議を含め、国民的な議論を十分に行った上で検討すべきだ」

 憲法71条 前2条の場合には、内閣は、あらたに内閣総理大臣が任命されるまで引き続きその職務を行ふ。
 ※「前2条」の69、70条は、内閣が総辞職しなければならないケースを規定。

◆菅氏「与党の議論見据え」、石破、岸田氏は慎重姿勢

 敵基地攻撃能力の保有に関しては、自民党総裁選でも3候補が言及した。告示された8日の共同記者会見で、石破茂元幹事長と岸田文雄政調会長は慎重な議論の必要性を強調し、菅義偉すがよしひで官房長官は安倍晋三首相の方針を踏まえ、自民、公明両党の議論を見守る姿勢を示している。
 石破氏は「日米安保との関係がどうなるのかを詰めないままに『敵基地論』が独り歩きすることは極めて危険だ」と指摘。岸田氏は「議論を行うこと自体は意味がある」としたものの「本当に実行可能なのか。法律的にも技術的にも詰めなければならない点がたくさんある」と課題を挙げた。
 菅氏は「専守防衛の範囲の中で今、与党でいろいろ議論している。最終的には与党の議論を見据えながら対応していきたい」と話すにとどめた。(中根政人)

関連キーワード

PR情報

政治の最新ニュース

記事一覧