広島にこだわる保守本流のリーダー 「風見鶏」との評価も 岸田文雄政調会長

2020年9月12日 10時30分
<自民党総裁選の候補者のビジョンは 東京工業大・中島岳志教授に聞く(下)>

書店に並んだ自身の著書を手にする自民党の岸田政調会長=11日午後、東京都内

 政治家の著作や発言などから特徴を分析した著書「自民党」がある東京工業大の中島岳志教授(政治学)に自民党総裁選候補の政策やビジョンを聞くシリーズ。3回目は、岸田文雄氏(63)に迫る。届け出順に紹介する。(三輪喜人)

◆初の書籍出版 

 政権構想、国家像、個人的なエピソードをふんだんに盛り込みましたー。岸田氏は、初めての著書「岸田ビジョン 分断から協調へ」を出版し、こうアピールした。発売日の11日には東京都内の書店を訪れてサインなどに応じた。
 
 「ポスト安倍」の有力候補とみられてきた岸田氏。安倍政権で外務大臣や政調会長を務め、バランスの取れた政治家と評価されてきた。しかし、政策や国家観を1冊にまとめたことはなかった。中島さんは「政治家として、どのようなことがやりたいのか曖昧だった」とみる。
 「格差の問題と真剣に向き合う。最低賃金の引き上げも考えないといけない」。党本部であった総裁選の演説会で、岸田氏は力を込めた。
 総裁選では「分断から協調へ」がスローガン。人への投資を促し、教育費や住宅費の負担軽減などで中間層の復活や格差の是正を目指す。省庁横断のデータ庁の新設など独自色もみせる。
 岸田氏は、自民党の中核を占めてきた保守本流、宏池会のリーダー。池田勇人、大平正芳ら首相4人を輩出した名門派閥で、リベラルな価値観を持つ。セーフティネットを充実させるような「大きな政府」を目指す政策を打ち出してきた。

◆ビジョンは「一定せず」

 一方、安倍首相は、自助努力と自己責任の「小さな政府」を志向し、価値観もリベラルな宏池会とは対局にある。しかし、岸田氏は第2次安倍政権で外務大臣に就任するなど、安倍路線に歩調を合わせ、軸がぶれたように見えた。中島さんは「スタンスやビジョンが一定せず、権力者の顔色をうかがう風見鶏だ」と指摘する。
 その要因には、岸田氏が安倍首相の後継と目され、禅譲を視野に入れていたことがある。石破茂氏のように安倍政権と対決姿勢を鮮明にできず、かといって菅義偉氏のように安倍路線の全面的な継承もできない。結果として、総裁選での立ち位置を難しくした。

◆「核兵器のない世界を」

 選挙区は広島原爆の爆心地を含み、被爆者への思いは強い。核軍縮をライフワークにしてきた。外務大臣として2016年5月、オバマ米大統領の広島訪問にも尽力した。総裁選の出馬会見でも「核兵器のない世界を目指すという大きな方向性に向けて取り組みたい」と述べた。中島さんは「一貫していて、核廃絶に向けた踏み込んだ発言もしてきた」と分析している。

中島岳志(なかじま・たけし) 1975年大阪府生まれ。京都大大学院博士課程修了。専門は南アジア地域研究、近代思想史。『中村屋のボース』で大佛次郎論壇賞などを受賞。

岸田文雄(きしだ・ふみお) 63歳、衆院広島県1区選出で当選9回。自民党政務調査会長や外務大臣などを歴任。総裁選の挑戦は初めて。

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