「米は内戦のような状況」 大統領選の激戦地ウィスコンシン州ルポ

2020年9月13日 06時00分
 米大統領選は11月3日の投票日に向け最終盤に入った。勝敗を左右する「ラストベルト」(さびついた工業地帯)の激戦州のうち、中西部ウィスコンシン州では8月、黒人男性が白人警官に銃撃される事件が起き、人種対立が再燃している。「融和か秩序か」で揺れる現地を歩いた。(同州で、金杉貴雄、写真も)

◆護身用の銃購入し射撃訓練

 「誰もが不安におびえている。常に警戒し、安全と感じることはなくなった」
 銃撃事件が起きた同州ケノーシャから北に60キロほど。郊外の静かな住宅街で、白人女性ナンシー・コルマニクさん(73)は抗議デモの暴徒化に顔を曇らせた。
 人種差別への抗議デモは、5月にミネソタ州で起きた白人警官による黒人男性ジョージ・フロイドさんの暴行死事件で全米に広がった。通りに響く「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命も大切だ)」の叫びはコルマニクさんの自宅でも聞こえた。
 「彼らは主張のために人を殺し、街を破壊することを気にしない」。人生で初めて護身用の銃を購入し、射撃訓練も始めた。

郊外の自宅前で不安を語るナンシー・コルマニクさん

 大統領選では共和党のトランプ大統領(74)に投票するという。もともと支持者ではない。多くの郊外の白人女性と同様、品のない話し方や不道徳さは嫌いだった。「だが彼は法と警察のため立ち上がっている。それがより支持する理由だ」

◆トランプ氏挽回の切り札「法と秩序」

 新型コロナウイルス対応などで失点を重ねたトランプ氏は、民主党のバイデン前副大統領(77)にリードを許すが、ここに来て差はやや縮小。特に関心を集める6つの激戦州(ウィスコンシン、ミシガン、ペンシルベニア、アリゾナ、フロリダ、ノースカロライナ)平均では3.9ポイントまで接近している。
 逆転の切り札に持ち出したのが「法と秩序」だ。ケノーシャの銃撃事件の抗議デモでは放火や略奪も発生。トランプ氏は、人種融和を図るバイデン氏を暴徒の支援者と位置付け、自らは治安を守る「守護者」とアピールする戦略だ。
 狙いはコルマニクさんのような「郊外の白人女性」票の挽回だ。ロイター通信などによると、この層の支持は6月時点でバイデン氏に15ポイント負けていたが、8月は9ポイントに縮まった。

◆黒人支持者たちの意気込み強く

 だが、露骨に不安をあおる言動は嫌悪感を生み、逆効果となる可能性もある。ケノーシャでは、トランプ氏を信奉する17歳の白人少年がデモ参加者2人を射殺する事件まで起きた。ネット上では少年を英雄視する言説もみられるほど、対立は激化している。
 郊外に住み、ケノーシャで美術装飾店を営む同じ白人女性バーバラ・デバージさん(68)は店が一部放火され、宝飾品などを奪われた。それでも「暴れているのはただの犯罪者」とデモを支持し、憤りはトランプ氏に向く。「われわれを完全に分断し、治安を悪化させているのは彼だ。米国は内戦のような状況だ」。再選阻止が何より重要と語る。

人種差別抗議デモの一部暴徒化で消失した建物前で話すバーバラ・デバージさん

 民主党は4年前、ウィスコンシン州で0.7ポイントの僅差で敗れた。支持者の熱気不足で投票率が落ちたのが原因だが、今回は黒人支持者の意気込みは強い。
 前回投票しなかった黒人男性デービスさん(30)は必ず投票すると誓う。「トランプ氏が言う『法と秩序』は今、存在していない。あるなら警官が黒人を無残に殺すことはないはずだ」

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