中国漁船でインドネシア人船員の虐待死相次ぐ 被害男性の証言から浮かび上がる「現代の蟹工船」<動画あり>

2020年9月14日 13時55分

7月、インドネシア当局の調べを受ける船員が死亡した中国漁船=デストラクティブ・フィッシング・ウオッチ提供

 中国漁船でインドネシア人船員が虐待され、死者が相次いでいる問題で、被害者の男性が本紙の取材に応じた。約8カ月間、夜通し仕事し、得たのは300ドル(約3万2000円)のみ。同じ船団の船員は暴力を受けて死亡し、遺体を海に流された。小説「蟹工船かにこうせん」を思わせる過酷さ。「同じ人間として扱われなかった」と憤る。 (バンコク・北川成史)

◆月給300ドルの約束で…奴隷扱いと知らず

 男性は西ジャワ州出身のスワルノさん(31)。昨年11月~今年6月、中国漁船で働いた。「仕事が必要だったんだ」と船に乗り込んだ理由を語る。
 スワルノさんは親類から「一緒に船員の派遣会社に登録しないか」と誘われた。親類は水疱瘡みずぼうそうにかかり、取りやめたが、職を失っていたスワルノさんは乗船を決めた。約束では月給300ドル。「奴隷のような扱いがあるとは知らなかった」

◆重労働割り当てられ、食事は中国人の残り物

 「625」の番号が振られた船はインド洋でイカ漁を操業した。船員は中国人17人、インドネシア人9人。中国人はイカの仕分けなど軽作業に就いたが、インドネシア人は網を引き、船を掃除するなど重労働を割り当てられた。
 午後9時から午前7時まで休みなしで働く。漁獲が多い時は、翌日午後3時まで18時間ぶっ続けだった。食事は米とタマネギ、中国人が残した肉だった。
 「休日を求めると『給料を減らす』と脅された」。スワルノさんは体調を崩し、胃を痛めた。中国人は別の船で診察を受けられたが、インドネシア人は要望しても許されなかった。

◆暴行と過重労働で死亡…遺体は海へ

中国漁船「623」で死亡したハルディアントさん。疲弊し、右目は腫れているように見える=スワルノさん提供

 1月、船団の「623」でインドネシア人のハルディアントさん=当時(30)=が死亡。遺体を海に流された。中国人船長による殴る蹴るの暴行と過重労働で、数人の支えがなければ歩けないほど弱っていた。
 給料未払いが続き、スワルノさんらは業務を拒否。すると、殴られ、電気ショック棒で痛めつけられ、この「623」に移された。
 「海に飛び込んで逃げた方がいい」。シンガポール近くで海上給油時、同僚は言った。だが、危険が大きく、踏み切れなかった。

◆Facebookに投稿した動画から政府が救出

 スワルノさんはフェイスブックに船の動画を投稿。インドネシア政府にも情報が届いた。最終的に韓国に寄港した後、保護された。
 給料は1カ月分が5月に家族に送られただけで、残りは支払われていない。
 「中国人船員の関心は安全ではなく漁獲量だけ。『自分たちの国の人間ではない』とインドネシア人を見下していたようだ」。スワルノさんは怒りを込める。

◆冷凍庫から遺体…若者ら14人が死亡、3人が不明

 こうした虐待問題は4月に発覚し、インドネシア政府は5月、中国に事実解明を要求するとともに、国連人権理事会に報告した。だが、その後も、インドネシア当局が拿捕だほした漁船の冷凍庫から同国人船員の遺体が見つかるなどしている。
 インドネシアの非政府組織(NGO)「デストラクティブ・フィッシング・ウオッチ」によると、昨年11月~今年8月、中国漁船で、主に20代前後のインドネシア人船員14人が死亡、3人が行方不明になっている。
 インドネシア警察は船員をあっせんした派遣会社を捜査。人身売買の罪で幹部らを訴追した。
 同NGOは「安全が保障されるまで、インドネシア政府は中国漁船に船員を送るべきではない」と強調。中国の司法当局との連携や派遣会社の監視強化、外国漁船で働く危険性の啓発を訴えている。

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