大坂なおみが日本語ツイートに込めた思い 移民国家アメリカ・スポーツ界と黒人アスリートの歴史

2020年9月15日 06時00分

テニスの全米オープンで、人種差別に抗議して黒人被害者名が入ったマスクを着用した大坂なおみ(左列上から下に1回戦~3回戦、中央上から下に4回戦~準決勝、右は決勝)=ニューヨーク(AP、USAトゥデー、ゲッティ・共同)

 人種差別へ抗議の意思を示しながら全米オープンを戦い抜いた大坂なおみ。コート外での活発な言動は、移民国家の米国スポーツ界で、黒人アスリートが歩んできた道のりの延長線上にある。彼女が訴えたものは何だったのか。

◆全米テニス協会はマスクを許可

 自宅で就寝中に警官に踏み込まれて射殺された女性、模造銃で遊んで撃たれた少年…。初戦から7試合、黒人犠牲者の名前が入った7枚の黒いマスク。くしくも新型コロナウイルス禍で欠かせなくなったものを、大坂は抗議の媒体に選んだ。試合を重ねるごとに、口元に記された犠牲者の事件概要が報じられた。コートでも手本となる振る舞いを心掛け、プレーヤーとしても輝いた。初戦で「7枚全部のマスクを見せたい」と語った言葉を、最高の形で実現してみせた。
 四大大会で特定の思想やメッセージが書かれたものを身に着けることは禁じられているが、全米テニス協会は許可。人種問題に対する米社会の関心の高さがうかがえる。
 野球では1947年4月15日、ジャッキー・ロビンソンが初の黒人選手として米大リーグデビューし、人種の壁を打ち破った。毎年この日にはセレモニーが行われ、功績をたたえている。68年メキシコ五輪では、陸上のメダリスト2人が黒人差別に抵抗しようと表彰台で黒い手袋をして拳を突き上げた。2人の行為は当時の米国社会では受け入れられなかったが、再評価されつつある。

◆弱者に寄り添ってきたスポーツイベント

 「スポーツ国家アメリカ」の著書がある慶大法学部の鈴木透教授(56)=アメリカ文化研究=によると、建国当初から人種差別が存在した米国では「能力主義を掲げるスポーツ界で成功を収める黒人たちが、偏見や差別を少しずつ後退させることに貢献してきた」。地域社会の結束の装置としてスポーツが発展した経緯もあり、スポーツイベントが率先して弱者に寄り添う姿勢を示してきた土壌がある。
 白人警官による黒人への暴力とそれに対する抗議活動はこれまでにもあったが、鈴木教授はコロナ禍がうねりを増幅させたとみる。「対面で仕事をするエッセンシャルワーカーに黒人が多く、いかに感染リスクにさらされているかが歴然とし、怒りが膨らんだのでは」。11月の大統領選へ、抗議活動を持続させたい民衆の意思も感じるという。

◆人種差別に認識の低い日本への願いは

テニスの全米オープン女子シングルスで2年ぶり2度目の優勝を果たし、トロフィーにキスをする大坂なおみ=12日、ニューヨークで(USA TODAY・ロイター・共同)

 8月下旬の米プロバスケットボールNBAのバックスのボイコットにも触発され、大坂は声を上げた。5月に米経済誌が発表した長者番付で女性アスリート史上最高額の約40億円で女子1位となり、自身の影響力も自覚していただろう。白人が圧倒的に多いテニス界で発信すると、世界で、そして母国日本でも賛否を巻き起こした。
 ただ、日本では人種差別への認識が欧米より低く、黒人問題を身近に感じにくい人もいる。大坂は全米直前のツアー大会で準決勝に出場しないことを表明した際、ツイッターに「一人の黒人女性として、自分のテニスを見てもらうよりも、今すぐ注目しなければならない、もっと重要な問題がある」と記した。日本語で翻訳した文章も添えて。日本のファンへ、身近に潜む差別へ想像力を持ってほしいという願いにも見える。
 「(7枚のマスクから)あなたはどんなメッセージを受け取りましたか。伝えたかったのは、みんなが議論してほしいということ」。大坂は優勝インタビューで問い掛けた。その言葉は、女王になったからこそ、ますます重く響き、そして輝きを放っていた。(兼村優希)

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