ウィズ認知症へ「なったらおしまい」意識を改革 世田谷区が首都圏初の条例化

2020年9月16日 05時55分
 「子どもから大人まで全ての区民が、将来にわたって認知症とともに生きる意識を高める」。こう宣言した東京都世田谷区の認知症施策の指針となる条例案が15日、区議会に提出された。「家族や社会に迷惑を掛ける。なったらおしまいだ」という考え方の抜本的転換を目指すのが特徴で、区によると同様な条例は首都圏では初めて。

◆5年後には全国で700万人にも

 2025年には認知症の人は全国で約700万人に達するとされる。同区は昨年初めから本人やその家族と意見交換するなどして準備を進めてきた。
 条例案によると、名称は「区認知症とともに生きる希望条例」。認知症の本人を「認知症とともに生きる人」と表記した。基本理念として、①どの場所でも意思と権利が尊重され、自らの力を発揮しながら安心して暮らし続けられる②区民や事業者などは認知症を自分のことと捉え、地域に自主的・自発的にかかわり、地域共生社会を実現する-を掲げた。
 区には、常に本人の視点に立ち、本人や家族の意見を聴いて施策を進めることを義務付けた。施策の評価委員会委員への本人参加も明記した。区民は「本人を理解し、支え合うパートナー」との位置付け。認知症になってからも自分らしく暮らす備えとして来歴や意思を記す「私の希望ファイル」などへの取り組みに、積極参加するよう求めた。

◆「希望を持って」世の中の意識変える力に

 「希望」という文字を条例名だけでなく目的、基本理念、基本的施策など全般にちりばめた。認知症になって絶望するのではなく、診断されてもさまざまな力が残っており、尊厳と希望を持って自分らしく生きることができる、というメッセージが伝わってくる。
 「認知症の人は問題がある困った存在で、対策の対象者とされてきた」と、区の条例検討委員会に参加した認知症介護研究・研修東京センターの永田久美子部長(60)。それが「国民の1人として当たり前に暮らす権利があることを基本とすることで、日々の暮らしや医療・介護の質の向上が期待できる」という。
 認知症の人にやさしいまちづくりの条例は神戸市や愛知県大府市などで誕生し、今年は名古屋市や滋賀県草津市にも登場した。世田谷区は認知症本人の声を聴く姿勢を貫き、認知症になる前も後も希望を持って暮らせる共生社会を、多様な分野や多世代が協働して進める条例に仕上げた。
 条例がある和歌山県御坊市では、銭湯がシャンプーとボディーソープの容器にそれぞれ「頭」「体」と油性ペンで書いた。「どれがどれかわからへん」との本人の声を受け、世の中が少し変わった。世田谷区でも条例が力になって、認知症への区民の意識と行動が変わることを強く期待したい。(編集委員・五十住和樹)

◆「備え」重視の画期的・模範となる条例

 認知症施策に詳しい元厚生労働省老健局長の宮島俊彦岡山大客員教授(67)の話 本人の意思と権利の尊重を明記し、「予防」に触れず「備え」を重視した点、区民をパートナーと位置付け、本人を支援するサポーターよりも共に歩む姿勢を明確にした点などが画期的で、他の模範となる条例だ。金融、交通機関やコンビニなど事業者を含めた社会も変わらなければならない。

関連キーワード

PR情報

東京の最新ニュース

記事一覧