<備えよ!首都水害>身近な川や下水があふれる 「内水氾濫」リスク、情報不足

2020年9月16日 07時07分

2019年10月13日撮影の世田谷区玉堤地区の航空写真。浸水で道路が泥で汚れている=国土地理院ホームページより、地名などは本紙が記載

 「水害」というと大河川が決壊し、水が住宅地に流れ込む光景を想像するだろうが、都市部では身近な川や用水路があふれる「内水氾濫」の方が大きな被害をもたらしてきた。昨年十月の台風19号で多摩川沿いの広範囲にわたり浸水被害が起きた世田谷区を例に、内水氾濫のリスクを考える。
 昨年十月十二日。多摩川沿いの同区野毛で二階建て賃貸住宅の一階に住んでいた堀内正雄さん(79)は混雑が著しい避難所を避け、高台の駐車場で車いすの妻フヂさん(95)と車の中で夜明けを待った。
 翌十三日未明。自宅に戻り玄関の戸を開けると、家の中に水がたまっており、水に押し出されるように冷蔵庫が転倒。危うく下敷きになりかけた。「まさかと思った。浸水への考えが甘かった」。床上約九十センチまで浸水。三日間はベッドの上にブルーシートを敷いてしのぎ、最近まで区営住宅に避難していた。
 玉堤の佐鳥聡夫さん(83)と妻春美さん(70)が風雨が去った十二日午後十時ごろ、避難先から自宅に戻ると、一階の室内に水が上がってきて、あっという間にくるぶしの上ぐらいまで漬かった。コロナ禍で滞っていたリフォームを最近終えたばかり。「あれ以来、豪雨のニュースを聞くと不安だ」と打ち明ける。

世田谷区が玉堤1、2丁目、尾山台1丁目付近の被害を事後にコンピューターで試算し、公表したもの。色が着いているところが浸水したエリア

 内水氾濫による浸水は、雨水が下水道の排水能力を上回ったり、水位が上昇した河川に放流できなくなったりして起きる。東京都市大世田谷キャンパス(玉堤一)で図書館などが浸水したのも内水氾濫が一因とみられている。
 多摩川の水位上昇に伴い、多摩川に流れ込む河川や下水道の樋門(ひもん)や樋管(ひかん)を閉鎖したため、雨水を多摩川に排出できなくなった。台風通過時の降雨状況などから区が試算した浸水シミュレーションによると、多摩川沿いの玉堤地区では田園調布(上)観測所で最高水位一〇・八一メートルを記録した十二日午後十時半ごろ、浸水範囲が最も広がった様子がわかる。
 また等々力排水樋門では、道路冠水などで職員が樋門にたどり着けず閉鎖できなかったため、多摩川の水が逆流するなど複合的要因で浸水被害が起きた。
 内水氾濫は短時間かつ局地的に起きる。ここに監視態勢が整った大河川にはない情報不足というリスクが潜む。区の浸水被害検証委員会委員長の末政直晃・東京都市大教授(地盤工学)は「中小河川の水位をネットで表示したり、地域のラジオ局と連携するなど極めてローカルな災害情報を住民にさまざまな経路で伝える準備をするべきだ」と指摘する。
 国土交通省によると、二〇〇八〜一七年の過去十年間の全国の水害の被害額一兆八千億円のうち、洪水氾濫が六割、内水氾濫が四割だが、東京では割合が逆転し、内水氾濫が七割に上る。市街地での内水氾濫の被害の甚大さが都市水害の特徴となっている。

京浜河川事務所の出水概要や世田谷区の資料などを参考に作成

◆松尾一郎先生のミニ講座 隠れた危険な「芽」を摘む

 九州を襲った台風10号は気象庁が前日に特別警報の発出を予告したり過去に経験のない大型台風への警戒を呼び掛けたりしたこともあり、多くの人々が早めに防災行動をとって幸い大きな被害には至らなかった。
 九州地方では宮崎県椎葉村で四人が土砂災害に巻き込まれた。このほか佐賀や大分、鹿児島県では外出中に風にあおられて転落、転倒し、避難時に側溝に転落して亡くなった方もいた。
 けが人は十日時点で計八十九人。八割は六十歳以上の高齢者だ。被災した場所は自宅が45%と多いが、避難行動中の屋外での転倒が27%、避難所内での転倒も25%と目立つ。重傷の方も十七人に上った。あらためて注意を喚起したい。
 まず、風が強くなる時間帯は何があっても外出しない、させないことだ。足元が不安な高齢者は特に過信は禁物だ。避難所は床がぬれて滑りやすく、自治体は滑らないスリッパを準備するなど転倒防止対策を講じるべきだ。避難所や自宅の窓ガラスが割れて飛散することも多く、飛散防止フィルムを貼っておくべきだ。風水害時の行動や備えを徹底し、隠れた被害の芽を摘んでおきたい。 (防災行動学・東大大学院客員教授)
 文・大沢令
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