「安倍政権そのままだ」菅内閣の注目は「ご飯論法」のあの人… 前川喜平・元文科次官
2020年9月17日 05時50分
16日に発表された菅内閣は、新閣僚が5人と新鮮味には乏しい布陣となった。官房長官時代の菅義偉首相に、記者会見で批判されたことがある元文部科学省事務次官で、現代教育行政研究会代表の前川喜平氏(65)は、新内閣をどう見たのか。(聞き手・三輪喜人)
「居抜き内閣と言われるように安倍内閣をそのままという印象。官邸主導は前政権よりも強まる。官僚は『菅さんににらまれないように』としんどい思いをすることになるだろう」と前川さんは新内閣に厳しい見方を示す。
ただ、経験者が多く並ぶ閣僚の中でも前川さんが「おっ」と思ったのは、官房長官に加藤勝信氏を選んだこと。歴代最長となる7年8カ月の官房長官を務めた菅氏が、後任を誰にするかに関心が集まっていた。
◆まともに答えない官房長官、再び?
前川さんは「一部では、『説明能力に長ける』と評価しているが、そうではない。質問をかわすのが、極めてうまい。自信満々にしっかり答弁しているように感じても、実はごまかしで、まったく説明責任を果たしていないことが多々あった」と話す。
加藤氏の得意技と指摘されるのが、論点をずらして説明する「ご飯論法」だ。「朝ごはんを食べましたか」と聞かれたときに、パンを食べたのに、「ご飯(白米)は食べていない」と強弁する論法のこと。
法政大学の上西充子教授が、国会で不誠実な答弁を繰り返す大臣の姿を分析したのがきっかけで生まれた。その大臣こそが、厚生労働大臣だった加藤氏だ。安倍晋三前首相や閣僚らも同様の答弁を多用し、国会での質疑が深まらない要因の一つとして「ご飯論法」は流行語となった。
前川さんは「うまくかわす答弁をみて、菅さんは自分の後継に起用したのではないか。失言はまずない。政府のスポークスマンになっても、ご飯論法でごまかすだろう」とみる。
◆河野氏がムチで、菅氏がアメ
「霞が関が、がっかりした」とみるのは、河野太郎氏の行政改革・規制改革担当大臣への就任だ。河野氏は行政改革に熱心に取り組んできたとされる。しかし、前川さんによれば、官僚側から見たら不合理なことを言われることもたびたびで、苦労した官僚も。
「戦々恐々としている官僚も多いのでは。でも、こうした汚れ役を置いたほうが官僚を操縦しやすいと菅さんは判断したのかもしれない。河野さんにムチを振るってもらい、菅さんが人事などでアメを与える」
前川さんは、官邸主導だった安倍政権時代にもまして、「菅一強」は今後、強化されるとみる。
安倍政権は2014年、中央省庁の幹部人事を決める内閣人事局を内閣官房に新設。官僚の忖度 を生む温床との指摘がある。
◆官邸主導は引き続き
官邸の方針に従わない場合は容赦なかったといい、前川さんは「文科大臣のOKをもらった人事案でも、官邸からダメだしされて、別の人が選ばれることもあった。通常では考えられない異常な人事や、菅さんにはね返されたという人事も聞いた」と話す。
総務省自治税務局長だった平嶋彰英さんは、ふるさと納税の制度に異議を唱えたため、8カ月後に自治大学校長に「左遷された」という。前川さんは「菅さんに盾つくと飛ばされる、と平嶋さんの話は霞が関では有名だった。びくびくしている官僚も多かった。スキャンダルになっていないだけでこうしたことはあちこちで起きていると思う」と振り返る。
菅氏は、自民党総裁選の最中にも、政権の方針に反対する中央省庁の幹部は「異動してもらう」と強調してきた。ただ、「現時点でも、官邸にべったりの人しか残っていない。生き残れずに飛ばされただろう」と前川さんは感じている。
◆官邸官僚たちは
安倍一強の長期政権は、「官邸官僚」と呼ばれる首相の秘書官や補佐官たちの支えもあった。経済産業省出身の今井尚哉 ・首相補佐官兼秘書官は、新型コロナ対策や外交政策などに大きな影響を与えてきたと言われ、安倍前首相の側近として知られた。
前川さんは、菅政権でもこうした官邸官僚を駆使するとみる。和泉洋人 首相補佐官は、留任となった。和泉氏は、海外出張でコネクティングルームに宿泊した問題で批判されたこともあるが、菅首相の信頼が厚いとされる。
「官邸官僚の中で経産省出身者の地位が低下するなどの変化はあるかもしれないが、官邸官僚を駆使する手法は変わらないだろう」
前川さんはこう予測した上で「安倍さんは森友・加計 ・桜を見る会と友達のために、行政の筋を曲げてきた。その尻ぬぐいをさせられてきた菅さんが、お友達を優遇するのかはよく見ていく必要がある」と話した。
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