「待機場所も人員も足りない」 政府の出入国緩和方針に空港検疫所の現場から危機感

2020年9月18日 05時50分

入国者(左)が採取した唾液の量を確認する検疫所職員

 政府が新型コロナウイルス対策の出入国制限の緩和を進める一方、成田など国際空港の検疫所は水際対策への危機感を強めている。政府は入国者増に備え、9月中に空港で「1日1万人」の検査を可能にする方針だが、14日時点で4300人と半分以下。体制が整うのか、現場からは戸惑いの声も上がる。(太田理英子)

◆成田空港検疫所では

 3日午後3時ごろ、成田空港第1ターミナルに米国やフィリピン発の航空機が続々と到着した。新型コロナ感染の検査のため、到着ゲートから出てきた乗客は全員、そのまま近くの検査場へと進んだ。
 7月末からPCR検査に代わり、抗原検査が導入された。乗客は試験管を受け取り、順番に個別ブースへ。唾液は1ミリリットルほど必要だが、うまく出せない人も。医療ガウン姿の検疫所職員が見回り、「泡が多いのでもう少し入れて」などと声を掛けていた。
 唾液採取後、乗客は健康状態などを記した質問票を提出し、指定席で待つ。結果はPCR検査の半分ほどの2~3時間程度で判明する。結果判明まで、入国審査はできない。陽性なら医療機関か宿泊療養の施設へ入り、陰性でも入国翌日から14日間、自宅や宿泊施設で待機して健康観察をする。
 同空港での1日当たりの検査件数は、入国者が激減した4~5月は500人程度だったが、経済活動再開に合わせて6月末ごろから増え始め、現在は1000件を超える日も珍しくない。
 政府は159の国・地域からの外国人の入国を原則、拒否しているが、9月から在留資格を持つ外国人の再入国は全面解禁した。定住者を含めて対象は約263万人。9月からは、ベトナム、タイに加えて台湾など5カ国・地域のビジネス客の往来も一部再開しており、今後はさらに入国者が増える見込みだ。
 入国者増を見据え、PCR検査よりも精度はやや劣るが、検査時間の短い抗原検査が導入された。成田空港では三カ所の検査場で、それぞれ一度に2人までしか検体を採取できなかったが、最大約30人に拡大。検体を調べる検査室もトイレを改修して3カ所に増やした。
 だが、同空港検疫所の担当者は「混雑はだいぶ収まったが、現状でも人手が足りているわけではない」とこぼす。多言語対応が必要な質問票の提出場所では、航空会社のサポートがあるものの、到着便が相次ぐ時間帯は人手が不足しがち。検査場でも、民間の検査会社の関係者の手を借りてしのいでいる状態だ。
 「1日1万人」検査を目標とすると、国内で入国が最も多い成田空港では数千人の検査が必要になる。検疫所担当者は「結果が出るまでの待機スペースは限られている。これ以上、乗客が増えたらどう確保するのか」と不安をのぞかせる。

◆検査すり抜け増に懸念

 抗原検査には簡易キットなどを使う「定性検査」と機器を使う「定量検査」がある。成田、羽田、関西の3空港の検疫では、精度が高い定量検査を行っている。それでも、PCR検査の7割程度よりもやや低いとされるが、厚生労働省の担当者は「14日間の健康観察をすることで担保は取れている」と話す。
 東京医科大の浜田篤郎教授(渡航医学)は「経済再生のために海外との交流復活は必要で、冬の第3波が来る前の今しかできない。簡便な抗原検査を導入するしかなく、ある程度は結果を出せると思う」と話す。
 その上で、陽性者が空港検疫での検査をすり抜けてしまう例が増える可能性を指摘。「現状できちんと検査可能な規模を踏まえてから、入国者の範囲を広げた方がいい。入国後の健康監視を徹底できる対策も必要だ」と強調する。

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