迫害逃れ大規模避難 新型コロナ後も密航組織暗躍<さまよえるロヒンギャ(上)>

2020年9月18日 06時00分
 ミャンマーのイスラム教徒少数民族ロヒンギャ70万人以上が、武力衝突や迫害から逃れるため国外に大規模な避難を始めてから3年が過ぎた。関係国は新型コロナウイルス対策に追われ、問題はたなざらし状態のままだ。停滞感が増す中、行き場を求めて周辺国のタイやマレーシアでさまようロヒンギャの姿を追った。(バンコク支局・北川成史)

◆難民キャンプには職も何もない


 仏教徒が9割を超すタイ。ミャンマーと接する西部メソトに「ローリアン・イスラム」と呼ばれる通りがある。近くにあるイスラム教徒の学校(タイ語でローリアン)から名が付いた。
 通り周辺には、タイ名産のチークの古材を扱う約20の店が集まる。ミャンマー西部ラカイン州での迫害から逃れたロヒンギャたちが、店で働いていた。
 店の一つで新参者の少年モハンマド(15)に出会った。2012年、ロヒンギャと仏教徒との衝突で家を燃やされ、ラカイン州都シットウェの国内避難民キャンプに住んでいたという。
 キャンプの学校に通ったのは小学4年まで。あてもなく過ごす中、別のロヒンギャの男に声を掛けられた。「マレーシアに行かないか。働いて稼げるぞ。ただで連れて行ってやる」
 男は密航組織の末端ブローカーだった。誘いに乗ったモハンマドは1月、キャンプを離れ、友人や親類を含む8人で昼夜歩いた。3月ごろ、メソトと国境を挟んだミャンマー側の密林に到着。出国を図るロヒンギャら200人ほどが集められていた。
 密航組織は突然、親族を通じた600万チャット(約480000円)の支払いを要求し、完了まで拘束した。モハンマドの両親が払えたのは5分の1。1銭も払えない人間は棒で打たれ、親類の1人は死亡した。
 金を搾り取れないと判断されたモハンマドと友人2人は7月下旬、密航組織の手配したボートで、新型コロナ対策のため閉鎖された国境の川を越え、メソトに置き去りにされた。
 現地のロヒンギャに助けられたモハンマドは、古材の店で寝床と食事を得る代わりに、無給で働く。はっきりと言う。「職も何もないキャンプには戻らない」

◆身重の少女は置き去りに

8月、タイ西部メソトで助けられた少女アイシャ。妊娠していると思えないほどやせていた=タイ西部メソト在住のロヒンギャ提供

 8月上旬、メソトで見つかった少女アイシャ(18)は妊娠後期で、マラリアにもかかっていた。
 アイシャはモハンマドと同じキャンプの出身。17歳で結婚したが、夫に捨てられた。失意の中でブローカーを頼り、4月、父のいるマレーシアを目指した。
 だが、長い道のりで身重のアイシャは歩けないと殴られ、金を払えず最後は放り出された。
 「出産が近いとは思えないほどやせ細っていた」。アイシャを助けた古参のロヒンギャ男性(48)は憤る。
 先の見通せない若者らを食い物にする密航組織が暗躍を続ける。リクルート役のロヒンギャのほかミャンマー人、タイ人、マレーシア人らのブローカーが国を超えて手を組み、治安機関も抱き込んでいるとみられる。
 「彼らには新型コロナも関係ない。『ビジネス』だからだ」。古参ロヒンギャが吐き捨てた。(敬称略)

  ロヒンギャ 仏教徒が9割のミャンマーで、西部ラカイン州に住むイスラム教徒少数民族。2017年の大規模避難前、推定で州人口の3分の1に当たる約100万人がいた。多くがバングラデシュからの不法移民扱いで無国籍状態にある。同州では12年、仏教徒少数民族とロヒンギャが衝突。10万人以上のロヒンギャが家を追われた。17年8月以降、治安部隊によるロヒンギャ武装勢力の掃討作戦では殺害やレイプが起き、70万人以上がバングラデシュに逃れた。

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