<序破急トーク 二十代宗家・宝生和英>特別編 動画でも味わう 「非日常」の舞台 「コロナ後」を見据えて

2020年9月18日 07時32分

「配信の映像からは舞台上での能楽師のすり足や道具を締めるなどの音を楽しむ人もいます」と話す宝生和英宗家=東京・宝生能楽堂で

 能楽の謡や舞は健康増進につながり、心を静める効能があると考えられています。新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言の解除後、宝生流では早い段階で有観客の公演を再開できました。宝生能楽堂(東京都文京区)は換気面も良好で、感染防止対策をきちんと施していますが、能楽の公演は客席から掛け声が上がることもなく、静かに鑑賞できる。そんな性質もプラスに働いているのではないでしょうか。
 公演の再開に、お客さまから「とても助かる」といった声が寄せられました。自粛などで在宅時間が増え、気分がめいってしまった方も多いと思います。しかし、外出も不安。室内で安心してゆったり過ごせる空間は意外に限られてきます。能楽堂がそんな場所であればと考えています。
 ただ、当会は北陸や東北など地方のお弟子さんも多く、県をまたいでの移動は難しい。通常なら鑑賞できる人たちが東京に来られない。そんな状況でもあることから、当会では有観客の公演と並行して、インターネットでの環境整備も進めています。「能LIFE Online」と称して、能楽に関する動画配信、チケットやグッズ購入、オンライン講座受講などを一括でできる仕組みです。
 能楽ファンは年配の方が多数と思う向きも多いですが、ここ数カ月で多くの登録者があり、その六〜七割が四十代以下。当会会員の割合はそんなに高くないようでして、新規のお客さまの開拓ができたと考えています。
 能楽師の中には「コロナ禍が収まれば元に戻る。いまは無理する必要はない」と考えている人も少なくない。私は真逆でして、コロナ終息後に次の能楽のステップに進むために、今こそ投資する好機だとみています。ほとんど“賭け”ですが、確実にそんな時代は来ていると思っています。
 既に公演などの動画を有料配信しました(ユーチューブで無料公開している映像あり)。映像では能の気迫が伝わらないとおっしゃる方もいます。会場の空気感などはそうかもしれませんが、それをしのぐくらいの撮影技術が発展しています。演者の細やかな息遣いや、あごからしたたる汗、扇を持つ手の微妙な動き…。こうしたところをパッと切り抜くことで演者の緊張感を伝えることができ、お客さまにドラマを感じてもらえる。実際に来場してご覧いただくのとは異なる魅力があると思っています。

アップで映し出された能楽師の手

 能は幽霊が出てくる曲も多く、そもそも「非日常」の舞台。そうした能の世界観に浸りたい方は、能楽堂で鑑賞していただいた方がいい。一方で最近は、演じている能楽師に興味を持つ方もいる。来場と動画の二通りの鑑賞方法の使い分けで楽しんでもらえたら素晴らしい。

配信された公演の一場面。客席からは見られない地謡の後方からの画像などもある

演者の汗が見える場面もある

 オンラインでの取り組みを進める中で感じるのが、ネット環境が整っていない地域がまだあるということです。地方への訴求には、こうしたインフラ整備が欠かせません。
 コロナ禍の終息後も、世の中はなかなか元に戻らないと思っています。会議や打ち合わせも引き続きオンラインになるのでは。私も毎日三本ほど会議がありますが、今までは無理だった申し合わせ(能におけるリハーサル)の直後に入れることも可能になりました。当会も六十代くらいまでの能楽師は、オンライン指導にも対応できています。タイムラグなど課題もあるようですが、使っていくうちに慣れていっているようです。 (宝生流第二十代宗家)
 ※能楽宝生流の宝生和英(かずふさ)宗家(34)がコロナ禍での能楽への考え方を記しました。
 「能LIFE Online」は、URL(http://nohlife.com)または「能LIFE」で検索。
 25日午後6時半から、宝生能楽堂で宝生流特別公演「夜能(やのう)」を開催。復曲能「雷電」(シテ=主演・渡邊茂人)などの上演のほか、能をもとに書き下ろされた作品を声優の速水奨が朗読(脚本・長田育恵)する演目も。※公演動画は10月に配信予定。

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