<食卓ものがたり>みずみずしい甘さ堪能 ナシ(岐阜県美濃加茂市)

2020年9月19日 07時08分

梨狩りを楽しむ女性たち=岐阜県美濃加茂市で

 腰をかがめて梨棚の中へ入ると先客がいた。初めて梨狩りに来たという愛知県の大学生、中野由唯さん(19)と大山侑記さん(19)だ。ここは、梨を作り続けて六十年余の杉田月男さん(85)が営む果樹園。二人は「二十世紀」を合わせて九個食べたそうだ。「みずみずしくて最高」。弾む声に誘われ、黄緑色に染まった実をもぎ取り、かぶりついた。
 飛騨川と木曽川を眼下に望む岐阜県美濃加茂市北部の山之上地区。海抜百四十メートルの台地で、農家百四十戸がそれぞれ数種類の梨を育てている。市史によれば果樹栽培が始まったのは大正時代。昭和初期に日本各地が霜の大被害を受ける中、温暖で日照にも恵まれた山之上地区は入植希望者が急増し、県内有数の梨産地に成長した。
 「粘土質の赤土に木の根がなじみ、味のいい梨ができる」と話す杉田さんの広さ一ヘクタールの畑には、甘みの強い「幸水」や「豊水」などを中心に三百本。今季は、畑のひび割れや実の日焼けなどを招く初夏の長雨と厳しい日照りに苦労した。「まずまずの出来。もぎたてが一番おいしい」と朝採り梨を手にほほえむ。
 梨作りは一年中ほとんど休みなしだ。春に白い花が咲くと、水鳥の羽毛でできた梵天(ぼんてん)ですべての花の雌しべに花粉をつけて受粉させる。一つの花に四、五個の実がつくが、マッチ棒の頭ほどになったら一個だけを残して間引き、病気にならないよう袋を掛ける。「食べた人が喜んでくれる物をと思って作業している」
 八〜十月の収穫期は一家総出で直売や箱詰め、梨狩りなどに追われる。毎年、全国から千件ほどの注文があり「二十年、三十年と長いお客さんが多くありがたい」と妻よしえさん(81)。ただ、地域では後継者不足で荒れた畑も増えつつある。「こだわりの山之上の梨をうまくつないでいければ」。杉田さんの言葉に大きくうなずいた。
 文・写真 平井一敏
◆味わう
 山之上の梨は各農園による直売・通信販売が中心で、市場にはほとんど出回らない。現在最盛期の豊水=写真=は3キロ(5個前後)の箱詰めで3000円ほど。その後、あきづきや新高などが販売される。
 梨狩りは山之上地区の四つの観光果樹園で実施。8月は幸水、9月〜10月中旬は二十世紀が収穫できる。入園料はいずれも時間無制限の食べ放題で中学生以上1100円、小学生880円、3歳以上660円。受付時間は午前9時〜午後3時。問い合わせは、山之上果実農協(フルーピア山之上)=電0574(25)4101。

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