音楽を感じろ デジタル時代に殺されていく音楽を救うニール・ヤングの闘い。 ニール・ヤング、フィル・ベイカー著

2020年9月20日 07時00分

◆「真っ当な音質を」信念の記録
[評]湯浅学(音楽評論家)

 公の音楽活動歴が五十七年を超えようとするベテランであるニール・ヤングは、近年も精力的に作品を発表しつづけている。その一方で、環境保護活動家であり(モンサントを批判したアルバムもある)、エコカーの開発や、鉄道模型のワイヤレスコントロール・システムを独自に開発完成させたりもしてきた。好奇心と行動力も旺盛なロック・ミュージシャンである。
 ヤングはCD時代以降に供給される音楽の音質にかねがね疑問と不満を抱いてきた。MP3などの圧縮データ音源が一般化し、ポップ・ミュージックの市場で主流となる現状に、ヤングは非常に強い危機意識を持つに至った。
 このままでは音楽家が本来望んでいた音質の音楽が大衆から遠ざかってしまう。アナログ時代に普通に聴かれていた音質の作品も、劣化したコピーしか世に残らなくなっていく。音楽のもたらす感動が目減りする。音楽が生み出す言葉を超えたもの、感じることで人の心を動かすものが、大きく損なわれていく。
 音楽は音質によって感じ方に差が生まれるものだ。ヤングの憂慮の根拠はここにある。かつて聴かれていた音、あるのにないことにされてしまう音、それが届けられないのが産業界の常識なら、それをぶち破ろう、いや破らねばならぬ、という信念の記録が本書である。
 PONO(ポノ。ハワイの言葉で「真っ当」という意)というハイレゾ専用プレーヤーを独自開発し、安価な音源ダウンロードサービスを成し遂げたものの、活動停止を余儀なくされる。その日々が綴(つづ)られている。共著者のフィル・ベイカーはテクニカルな面と、運営の実際を詳述している。画期的であったがゆえの艱難(かんなん)辛苦を、ひらめきと経験で乗り越えていく。ヤングの音への愛と執念が人々を説得する。いい音が手軽に幅広く届けられることを証明してみせる。PONOは止まったが、現在ヤングはその先を実現している。ハイレゾ音源によるストリーミング・サービスだ。無垢(むく)の魂がいい音を生むのだ、と教えられた。
(鈴木美朋訳、ストランド・ブックス発行、河出書房新社発売・300円)
<ヤング> 1945年生まれ。「孤独の旅路」が大ヒット。
<ベイカー> エンジニア。

◆もう1冊 

ニール・ヤングのウェブサイト=neilyoungarchives.com

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