「ごちそうさま」の恩返し 母子家庭で育った僕の、日曜だけのカレー店 

2020年9月19日 11時16分

「カレー工房 和KAZU」を営む有井幸弘さん。小さい子どもでも食べられるように、辛くないのが特徴のひとつだ=いずれも川崎市高津区で(石川修巳撮影)

 「ごちそうさま」の恩を返したい―。そんな決意を秘めて、母子家庭で育った40代男性が、川崎市内で手作りカレーの店を始めた。栄養も愛情も込めた一皿で、かつての自分のような子どもたちのおなかを満たしたいと願っている。(石川修巳、写真も)
 川崎市高津区溝口のシェアマーケット・ノクチラボで、2月から日曜日だけ出店している「カレー工房 和KAZU」。店主の有井幸弘さん(41)=中原区=は「僕のカレーは全然辛くないんです」と語る。
 目指したのは「子どもがおいしい、大人もおいしいカレー」。看板メニューの「まごわやさしいカレー」(700円)など、牛すじや豆、ごま、魚などを使ったうま味の強いだしを、8種類のスパイスでまとめた。辛さは自家製ラー油で調節するスタイルだ。

看板メニューの「まごわやさしいカレー」

 3歳のころに両親が離婚し、母子家庭になった。交通誘導のガードマンとして働く母が、帰宅して急いで作る夕食はうどんが多かったという。「料理が得意じゃないみたいで、だしは利いていなかったなあ。でも、僕ががっつくもんで、母ちゃんはにこにこ見ていた。それがうれしくて」
 周りの人たちも気にかけてくれたという。小学生の時、友だちの家でごちそうになったしょうが焼きのおいしさ。同級生のお母さんが自転車で届けてくれた容器には、ちらしずしが詰めてあった。
 「貧乏でも、劣等感はなかった。母は優しかったし、周りの支えにも恵まれていましたから」と有井さん。「だから、今度は私が『心優しいおせっかい』をする番です」
 高校卒業後、定食チェーンで働き、夜は調理師学校へ。精進料理店を経て、結婚を機に介護施設の給食会社に就職した。会社勤めのかたわら、週1回のカレー店を始めたきっかけは、父の死だったという。ずっと音信不通だったけれども、昨年初め、父方の親類が突然現れて「遺産を受け取ってくれないか」と告げた。
 「僕のために、30年以上こつこつためていたみたい。間違ったお金の使い方をしないように、これを恩返しの資金にしようと思って」。カレー店には、父の名前の1文字を入れた。

子ども食堂のレシピを担当する有井さん(中)。「安くて豪華」と評判だ

 少しずつ常連客が増え、「このカレーなら子どもが全部食べるのよ」との声も。今は赤字だけれども、いずれ収益が出たら、キッチンカーなどで子どもたちに食事を届ける「恩返し」をしていきたいという。
 毎月1回、自宅近くで開かれる子ども食堂の運営にも参加。有井さんが考案するレシピは「安くて豪華」と評判になるほどだ。
 自分も3人の子の親になった。「同じような志のある人は、きっとたくさんいる。恩返しの形はまだ手探りだけれども、自分から一歩踏み出したい」とほおを緩めた。

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