【動画あり】「勝敗を決する州」ペンシルベニア、 バイデン氏「故郷」でトランプ氏猛追<米大統領選ルポ>

2020年9月19日 17時50分

 最終盤に入った米大統領選(11月3日投開票)で、東部ペンシルベニア州が「勝敗を決する州」(米メディア)として注目されている。「ラストベルト」(さびついた工業地帯)であると同時に、民主党のバイデン前副大統領(77)の生まれ故郷で、共和党のトランプ大統領(74)が激しく追い上げているからだ。高齢化と産業の空洞化が進む分断の現場を歩いた。(同州北東部で、岩田仲弘、写真も)

◆空洞化の象徴、東京ドーム1.2個分の廃墟

 首都ワシントンから北に約400キロ。同州スクラントン市の中心部に、東京ドーム1.2個分はある巨大な廃虚が広がっていた。19世紀末に創業したレースカーテンの縫製工場跡地だ。一時は従業員1600人を数えたが、2002年に閉業、そのまま放置されてきた。街の空洞化の象徴だ。

レースカーテンの縫製工場跡地=スクラントンで

 同市を含むラッカワナ郡と隣接するルザーン郡など一帯はかつて炭鉱、鉄鋼や繊維業、鉄道の要衝として栄えた。だが第二次大戦後、主要エネルギーが石炭から石油に代わると地域の衰退はどんどん進んだ。

レースカーテンの縫製工場跡地=スクラントンで

 バイデン氏は1942年、スクラントン市内で生まれ、10歳まで暮らした。ちょうど地域の衰退が始まった頃と重なる。市の人口は今、約7万6000人と、最盛期(1930年代)の約半分にまで減った。
 そこに4年前、トランプ氏が登場。「忘れられた人たち」と呼んだ白人労働者層に向かって製造業の復活を約束し、地域の人々の心をつかんだ。
 「オバマは大統領の8年間、何もしなかった。しかもイランに(核合意の結果)多額の金を提供するなど間違いを犯した。それに比べて神から選ばれたトランプ大統領は国家、国民のことを常に気に掛けてくれる」。敬虔なクリスチャンのリンダ・ステッツァーさん(78)が市内の自宅で、先祖代々、約170年間受け継いだ大きな聖書を背にしてこう語った。

◆労組のしがらみ「生まれながらの民主党員」が…

 地域一帯は炭鉱や製造業の労働組合とのしがらみでステッツァーさんは「生まれながらの民主党員」だったが前回選挙ではトランプ氏に投票、その後共和党員に転身した。

スクラントン在住のリンダ・ステッツァーさん(右)と夫のクリストファーさん

 前回選挙でトランプ氏はステッツァーさんら高齢の白人保守層の支持を取り込み、ラッカワナ郡で民主党のヒラリー・クリントン元国務長官を苦戦に追い込んだ上、ルザーン郡では大勝。得票率の差わずか1%未満でペンシルベニア州を制する要因となった。

◆産業衰退で、消えた労組の縛り

 地元ウィルクス大のベンジャミン・トル助教は「トランプ氏は、政治家は自分たちを置き去りにした、と不満を持っていた普通の人たちに語りかけ、それが功を奏した。産業の衰退とともに労組の縛りが解けたことも大きい」と語る。
 ステッツァーさん宅の隣に住むフローレンス・エルドレッジさん(67)も同じく共和党への「転向組」だ。「トランプのいいところは大統領らしくないこと。ツイッターで言いたいことを遠慮なく言うところも好きだ」と手放しでほめる。
 再選を目指すトランプ氏は今回もバイデン氏の「地元」に照準を合わせる。先月下旬、民主党大会でバイデン氏が候補指名の受諾演説をする日に合わせてスクラントン近郊に出向き「バイデンは地元を見捨てた」と批判した。
 市内の食堂で会ったジョイス・ウェーバーさん(77)は「街は若い人が出て行って意気消沈している。この間、誰も新たな産業を持ってこなかった。トランプは正直だ」と語った。やはり長年の民主党員。「まだ(トランプ氏かバイデン氏か)どちらに投票するか決めかねている」と述べたが、心はトランプ氏に傾きつつあるように見えた。

◆直近調査でバイデン氏のリード縮まる

 米モンマス大のペンシルベニア州に絞った直近の調査によると、バイデン氏のトランプ氏に対するリードは1~3ポイントにまで縮まっている。
 バイデン氏支持者にとって、トランプ氏の猛追は気が気でない。市中心部から北に約3キロの緑豊かな住宅街にあるバイデン氏の生家。通り沿いには「スクラントンはジョー(バイデン氏)を愛している」と書かれた小さな看板が並ぶ。ただ、ところどころにトランプ氏を支持する看板も掲げられ、バイデン氏支持一色でないことを物語っている。
 バイデン氏は、スクラントンを訪れるたびに、生家を購入したアン・カーンズさん(85)と話す。7月に訪れた時も立ち寄った。

バイデン氏の生家=スクラントンで

 「新型コロナウイルスの感染を巡っても、トランプは私たちにうそをつく。4年前、多くの人が新参者(トランプ氏)にだまされた。それに比べてジョー・バイデンは経験豊かだ。早く大統領職を引き継いでほしい」。体調を崩していたカーンズさんは後日、電話でこう語ってくれた。

◆有権者登録数、減らす民主、じわり増える共和

 スクラントンから南西に約20キロ離れたルザーン郡エクセターの元教員バーバラ・バジオルコさん(71)と、元同僚のビバリー・ダルニーさん(73)もバイデン氏を熱烈に支援する。2人とも祖父や父親が炭鉱で働いた経験があり、1959年に地元を襲った鉱山事故も経験。「トランプは炭鉱を復活させるというが、この地域では不可能だ」。バジオルコさんの自宅テラスで2人は口をそろえてトランプ氏批判を繰り返した。
 バジオルコさんはまた、「なぜヒラリーが4年前に負けたか、いまだに分からない」と首をかしげる。クリントン氏の父がスクラントン市出身で、米メディアによると、クリントン氏は子どものころ、夏休みに市近くの湖畔の保養地によく出掛けていた。地域一帯はクリントン氏にとっても「地元」だからだ。「この地域の多くの高齢者が保守的で『女性大統領』を受け入れられなかったのだと思う」。ダルニーさんはこう推し量る。

バーバラ・バジオルコさん=ルザーン郡で

 地元キングス大のベス・アドミラル准教授は「クリントン氏が前回選挙の直前『トランプ支持者は嘆かわしい』と述べた影響は大きく、余波はその後も広がっている」と指摘する。
 ペンシルベニア州当局によると、両郡の有権者登録数はいずれも民主党が共和党を上回っているものの、16年に比べて民主党が減らしているのに対して、共和党はじわりと増やしている。
 モンマス大のパトリック・マレイ世論調査研究所長は「クリントン氏よりバイデン氏の方が集票力はある」と分析。スクラントン市を含むラッカワナ郡では特に今回もトランプ氏との大接戦を予想する。
 バイデン氏は7月、スクラントン近郊の金属加工施設で「ビルド・バック・ベター(より良き再建を)」と製造業の復活と雇用創出を訴えた。さらに今月17日には、CNNテレビ主催の市民対話集会のため再び当地に入り「これはスクラントン対(トランプ氏のような富裕層が住むニューヨークの)パーク・アベニューの戦いだ」と強調。白人労働者層に寄り添う姿勢を必死にアピールした。

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