「内閣人事局をブラックボックス化」 問題指摘し左遷 元官僚語る
2020年9月20日 05時50分
菅義偉首相は官邸主導の政策推進に向け、省庁幹部人事を一元管理する内閣人事局で「官僚支配」を続ける方針だ。政策に反対する官僚を「異動させる」と明言し、安倍前政権で問題になった忖度 政治がさらに強まる恐れもある。菅首相が実績と誇るふるさと納税の問題点を指摘して左遷されたとされる元総務官僚の平嶋彰英・立教大特任教授(62)に話を聞いた。(聞き手・後藤孝好)
◆ふるさと納税に反対「飛ばされた」
―かつてふるさと納税を担当する総務省幹部だったが異例の人事で転出した。
「官房長官だった菅さんから2014年に、寄付金の上限額の倍増や手続きの簡素化などを指示され、返礼品競争の過熱や、高所得者への過度な優遇になるという課題を指摘したら、反対したということにされて飛ばされた。『逃げ切りは許さないぞ』と圧力をかけられ、最終的には従ったが、異を唱えたのが気に入らなかったのでしょう」
―菅首相は官房長官の時に左遷を否定した。
「菅さんは国会で『事実無根』と答弁したが、官邸が私の人事を止めたのは事実だと思う。当時の高市早苗総務相が官邸に人事案を上げたら、私だけバツを付けられたということで『ふるさと納税で菅ちゃんと何かあったの』と心配されたことがあった。菅さんが内閣人事局をブラックボックス化してしまった」
―菅首相は政策の方向性に反対する官僚には「異動してもらう」と述べた。
「これまで以上に物を言いにくくなり、首相やその周辺の意見で物事が決まるようになる。『おれが言っているからやれ』では、法治国家ではなく、人治だ。(政治家の)各閣僚が中心となって(官僚に)指導力を発揮するのが本来の政治主導。閣議決定などで方向性を決めていないのに、官邸の有力者の意向だから従えというのでは行政が混乱する。内閣法の趣旨を理解せず、政治主導を履き違えている」
―ふるさと納税では最近、問題が相次いだ。
「菅さんは当初『お世話になった古里への恩返し』と説明していたが、懸念した通り自治体の返礼品競争で全然違う状況になった。止めておけばよかったと忸怩たる思いだ。高所得者は税控除の優遇が大きく、肉や魚などを食べきれないほど受け取れるという問題は今も残っている」
◆「官僚に忖度させる恐怖政治は勘弁を」
―菅首相に言いたいことは。
「官僚が選挙で選ばれた政治家の決定に従うのは筋ではあるが、忖度させる恐怖政治のようなやり方はもう勘弁してもらいたい。これまでの政権でもあったが、官邸で首相周辺が『首相はこう言っている』と指示することがまかり通っては困る」
―後輩の官僚に期待したいことは。
「役人としてやるべきことをやって良心に恥じない行動を取ってもらいたい。私はふるさと納税で最終的に言われた通りにやって後悔しており、あまり偉そうなことは言えないが。もし妥協したら、後々歴史で裁かれるでしょうから」
ひらしま・あきひで 1958年、福岡市生まれ。東京大卒業後、旧自治省入り。2015年にふるさと納税を担当する総務省自治税務局長から自治大学校長へ異動になり、異例の人事として国会審議でも取り上げられた。17年から現職。
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