進まぬ権利保障、やまぬ迫害…武装勢力の不気味な影<さまよえるロヒンギャ(下)>

2020年9月20日 05時50分

3月、クアラルンプール郊外でARSAの活動について話すヌル。写真撮影の際、顔を服で覆った(北川成史撮影)


 マレーシアの首都クアラルンプール郊外。中古の機械が無造作に置かれた工場の敷地で、ミャンマーを離れたイスラム教徒少数民族ロヒンギャの男性ヌル(28)=仮名=が取材に応じた。(敬称略、クアラルンプール郊外で、北川成史、写真も)

◆難民キャンプあるバングラデシュで活動

 ロヒンギャの武装勢力「アラカン・ロヒンギャ救世軍」(ARSA)のマレーシアにおける幹部の1人だと自称する。
 ヌルの説明では、ARSAは政治部門と軍事部門を持つ。軍事部門は最高司令官のアタウラに率いられ、ミャンマーやロヒンギャの難民キャンプがあるバングラデシュで活動する。
 10万人以上のロヒンギャが住むマレーシアでの主な活動は資金調達。ヌルら5人ほどが国内の幹部を務め、その下に約50人の活動家、さらに数百人の支持者がいる。集まった寄付金は地下銀行などを通じて国外に送るという。
 ヌルは2009年、マレーシアに渡った。ARSAによる武力闘争に共鳴し、17年、一員に加わった。
 「ミャンマーにいたころは民主化運動を指導するアウン・サン・スー・チー(現国家顧問)を支持していた」とヌルは明かす。

◆「スー・チー政権で状況悪化、戦うしかない」

 スー・チー率いる国民民主連盟(NLD)が16年に政権を樹立後、治安部隊によるロヒンギャ迫害で70万人以上の難民が発生。ミャンマー政府はジェノサイド(民族大量虐殺)の疑いで国際司法裁判所(オランダ・ハーグ)に提訴されたが、スー・チーは昨年、出廷して反論した。
 「スー・チー政権で状況は悪化した。国際的圧力も通じない。戦うしかない。ARSAの支持者は増えている」とヌルは主張する。
 ARSAは17年8月に治安部隊の拠点を襲撃後、ミャンマーで目立った攻撃を起こしていない。軍事部門の比重は、難民の流出先となったバングラデシュに移ったとみられる。
 難民キャンプで支援活動をする人権活動家アリ・カビールは「ARSAは夜間にキャンプを回り、新規メンバーを勧誘。ミャンマーから薬物を密輸するロヒンギャから上前をはね、資金を得ている」と指摘する。
 ARSAの戦闘員は500人程度ともいわれるが、実態は不明な点が多い。

◆「治安部隊の迫害呼ぶARSAの襲撃」

 「歴史が浅く、ロヒンギャを代表する組織ではない。彼らの襲撃が治安部隊の迫害を呼び、多くの難民を生んだ」。1990年代にタイに移ったロヒンギャ男性(52)は反感と懸念を交える。「SNS上のARSAの過激な主張に同調する若者がいるのも事実だ」
 ミャンマーでロヒンギャの権利保障や迫害の責任追及の動きは鈍く、新型コロナウイルスの影響で、難民帰還も進まない。膠着状態の中、武装勢力の不気味な影が膨らんでいる。

 アラカン・ロヒンギャ救世軍(ARSA) 2012年にミャンマー西部ラカイン州で発生した仏教徒少数民族とロヒンギャの衝突を契機に設立。創設者はパキスタン生まれでサウジアラビア育ちのアタウラ。ロヒンギャはミャンマーの先住民族だとして、市民権を要求し、自衛と目標達成のため戦い続けると宣言する。17年8月、ラカイン州で治安部隊の拠点を襲撃。治安部隊の反撃の中、ロヒンギャに対する殺害やレイプが起き、70万人以上がバングラデシュに逃れた。

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