「行かせてあげたいが…」中止の自治体、苦渋の決断 日帰り旅行の子、バス内会話禁止でも「思い出になった」

2020年9月21日 06時00分
2019年5月、東京駅で修学旅行に出発するため新幹線に乗り込む生徒ら。新型コロナウイルス感染拡大で、この光景もしばらく見られない=東京都千代田区のJR東京駅で(全国修学旅行研究協会提供)

2019年5月、東京駅で修学旅行に出発するため新幹線に乗り込む生徒ら。新型コロナウイルス感染拡大で、この光景もしばらく見られない=東京都千代田区のJR東京駅で(全国修学旅行研究協会提供)

 「行かせてあげたいが、安全が保証できない」―。コロナ禍での宿泊行事について、東京23区と首都圏の5政令市の教育委員会への本紙取材では、中止を決めた担当者から苦しい心境が聞かれた。子どもたちの学びと安全をどう両立させるか。学校運営に詳しい教育研究家の妹尾昌俊さんは「この機会に行事の意義を問い直し、決定過程で子どもや保護者の意見を聞くことが大切」と話す。(奥野斐、中村真暁)

◆現地で発熱したら…募る不安

 「感染状況が見通せず、児童生徒と教職員らの健康管理と安全確保が難しい。『なんとかやって』という声はあったが…」。修学旅行など全ての宿泊行事の中止を決めた大田区教委の早川隆之副参事は取材に、「苦渋の決断だった」と語った。同じく中止とした江東区教委の担当者も「実施の検討はしてきたが、現地で発熱した場合にどう対応するのか。出発直前に陽性者が出れば中止することにもなる」と説明した。
 受験との日程調整や、キャンセル料の問題から中止を決めた自治体もある。一部の自治体は代替行事を検討中としているが、ある区教委の担当者は「期待させておいて、できないとなるのは避けたい。代替行事をするとも言えない」と苦しい胸中を漏らす。
 実施方針の自治体も、宿泊先の密を避けるために旅館の変更や日数を減らしたり、移動中の換気を徹底したりなど安全性の確保に気を配る。中学3年の修学旅行を実施予定の杉並区教委の担当者は「行事の意義をふまえ、可能な限りこれまでの教育活動を工夫してやろうという思いで決めた」と話した。

◆保護者戸惑い「せめて代替行事を」

 中止や変更の動きに、子どもや保護者からは戸惑いの声が上がる。小6の娘の宿泊行事が中止になった文京区の母親(50)は「友達と一緒に寝起きしたり、語り明かしたりして、宿泊行事には、特別な学びもあるのに。残念すぎる」と声を落とす。「せめて代替行事をしてほしい」。中3の息子の修学旅行は延期になったが、「直前に感染者が出た時に差別しないような指導をしてほしい」という。
 墨田区の小学6年の男児(12)は2泊3日の宿泊行事が日帰りとなり、今月、栃木県日光市を訪れた。バス内は友達同士での会話は禁止で、映画を見ていたという。それでも「友達と日光東照宮の階段を上って、めっちゃ楽しかった。思い出になった」と喜んだ。
 中止や規模縮小は、運動会や文化祭などの学校行事にも及んでいる。例年のような行事は全て中止にした足立区の公立中の校長は「先生たちは皆、やらせてあげたいと思う。だが、学校内でマスクや消毒の徹底が言われる中、宿泊や行事をリスクを冒してまでやる必要性があるのか」と理解を求めた。

◆専門家「子どもたちの意見を聞いて」

 こうした状況に、妹尾さんは「修学旅行は文字どおり学習の機会にすべきで、学びの質を高めるために意義や内容を見直す好機だ」と指摘。行事は子どもの自発的な活動が尊重されるべきだとして、「安全性に配慮しながら、可能な範囲で子どもらの意見を聞き、何らかの形で実施する判断がもっとあってもいいのでは」と話している。

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