「倍返しにしてやる」 検事は怒鳴って顔を近づけた 証拠改ざんから10年、道半ばの検察改革

2020年9月21日 06時00分
 大阪地検特捜部検事(当時)による証拠改ざん事件後、最高検は「誘導で客観証拠と整合しない調書が作成された疑い」を認め、「当初の見立てに固執しない捜査」を約束した。だが、東京地検特捜部に近年逮捕された男性は「密室の取調室で、検察が勝手に作った調書にサインさせられた」と証言する。改ざん事件発覚から10年。無理な取り調べは今も続いているのか。(小沢慧一、山下葉月)

◆「筋書きに合わないと聞いてもらえない」

 「倍返しにしてやる」「どうなっても知らねえぞ」
 2年前に収賄容疑で特捜部に逮捕され、執行猶予付きの有罪判決を受けた元文部科学省幹部の川端和明氏(59)は、検事からそうすごまれたと振り返る。
 賄賂の認識はなく、便宜を図ったこともないと主張すると、検事は「被疑者のくせに、ふざけんな」と怒鳴り、机をたたきながら顔を近づけてきたという。

録音・録画された取り調べでも「被疑者のくせに、ふざけんな」とすごまれたと話す川端和明氏=東京都内で

 結局、賄賂の見返りに便宜を図ったように取れる供述調書が作成された。川端氏は「調書の内容を否定すれば、保釈が認められない上により重い罪を作り上げられるのではと思い、しぶしぶサインした」と話す。
 取り調べは録音・録画(可視化)されていた。弁護人が「調書は検察の作文だ」と訴えたところ、検察は証拠請求せず、公判での証拠とはならなかった。川端氏は「取り調べは調書ありき。検察の筋書きに合わないことは、聞いてもらえなかった」と語った。

◆「客観証拠で立証できる」と検察は主張

 証拠改ざん事件で浮かび上がった「誘導による調書」。特捜OBの郷原信郎弁護士は「30年前は、押収した手帳を手に『不倫を妻にばらすぞ』と脅して自白を迫ったり、『白旗あげろ』と叫んだりする検事もいた」と眉をひそめる。
 改ざん事件を受けて2010年11月に発足した「検察の在り方検討会議」は、供述調書への過度の依存を見直すよう提言。法制審議会の特別部会での議論などを経て昨年6月、検察の独自捜査事件などに限り、逮捕後の全過程で取り調べを録音・録画する改正刑事訴訟法が施行された。
 ある検察幹部は「自白の強要など、やりようがない」と語り、別の幹部も「今はデジタル技術の発達で、衛星利用測位システム(GPS)記録やメール記録などの客観証拠が集めやすくなった。供述に頼りすぎなくても十分に立証できている」と強調する。

◆「密室」に風穴が必要

 検察は改ざん事件で失墜した信頼の回復を図るが、日産自動車の元会長カルロス・ゴーン被告を巡る事件では、否認すれば勾留が長引くとされる「人質司法」が批判を浴びた。河井克行元法相夫妻の買収事件では、現金を受け取ったとされる地元議員ら全員を起訴せず、裁判で有利な証言をさせようと「裏取引」をしたとの疑念もくすぶる。
 大阪大の水谷規男教授(刑事訴訟法)は「容疑者は狭い取調室で長時間、検事と向き合わざるを得ない。検事に迎合して虚偽の自白をする恐れは常にある」と指摘。「密室に風穴をあけない限り、虚偽自白による冤罪は防げない。そのためには、全事件での録音・録画や弁護人の立ち会いが必要だ」と指摘した。

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