<スポーツ虐待>(上)乏しい問題意識 いまだ残る暴言・暴力

2020年9月22日 07時42分
 日本では今年、子どもへの体罰が全面的に禁止された。家庭での虐待に対する意識が高まる一方、スポーツの場では勝利至上主義や指導者・先輩を絶対視する人間関係のために、暴力や精神的な抑圧を容認する土壌が残る。すべての子どもたちがスポーツ虐待に苦しまず、競技を通じた成長の機会を保障されるのに必要なことは何か。子どもの権利を守ろうと活動する人たちの話から考えたい。 (小林由比)
 「ミスをした時はたたかれたし、暴言など高圧的な指導が日常的だった」。東京都内の高校を今春卒業した萱原(かやはら)康介さん(18)が高校で所属したアメリカンフットボール部では、指導者から生徒へ、先輩から後輩への暴力が恒常的にあった。

萱原康介さん

 三歳から中学校までサッカー一筋。ただ「全国大会に一度は出たい」との夢をかなえるため、高校では全国常連のアメフット部に入った。相次ぐ暴力にも「強豪チームはこんな感じなんだろう」と疑問を持たなかった。「大学進学にも影響を持つ指導者に逆らえない雰囲気もあった」
 一年生から試合に出ていた萱原さんに、「生意気」と先輩も暴力をエスカレートさせていった。馬乗りで殴られたり、脳天に足を打ち下ろされたり。「暴力は当たり前、グラウンドで見返せばいいと思っていた。今思えば、自分もまひしていたし、スポーツの本質を理解していなかった」
 高校一年の秋ごろ。ひどい頭痛で受診すると、頭蓋骨の一部がずれていた。医師から「練習だけが原因とは考えられない」と伝えられ、初めて暴力被害を両親に打ち明けた。部や学校にも訴えたが、先輩には筒抜け。報復の暴力を受け、そのまま退部を余儀なくされた。「暴力がきっかけで、やりたかったスポーツをやめていく子がいることをもっと知ってほしい」
 十代の子どもたちが部活などで受けているスポーツ虐待の実態は、国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)が今春実施したオンラインアンケートでも明らかになった。二十五歳未満の三百八十一人のうち19%が何らかの暴力を受けていた。年齢や性別を問わず幅広い層の子どもたちが被害に遭った。
 加害者で最も多いのは指導者だが、上級生の暴力も多かった。HRW日本代表の土井香苗さんは「『子どもへの暴力は許されない』という社会規範にスポーツ界は乗り遅れていることが明らかになった」と指摘する。
 「子どものスポーツ指導の世界で虐待がなくならないのは、社会全体が激しい競争にさらされているから」。二〇一八年にユニセフが公表した「子どもの権利とスポーツの原則」の起草に中心的役割を果たした山崎卓也弁護士はこう指摘する。「子どもに過度な期待をかける親の意識を変える必要もある。子どものスポーツの場を変えていくことは、大人がどういう社会を望むのかということにほかならない」 =(下)は二十六日掲載

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