新型コロナ罰則付き、都民ファ条例案で物議 「感染させたら過料」条文粗く他会派冷ややか

2020年9月23日 05時50分
 新型コロナウイルス感染症対策として、東京都議会(定数127)の最大会派・都民ファーストの会(50人)が検討する罰則付き条例案が、物議を醸している。国会で強制力を持った法改正の議論が進まない中、感染者の行動制限や店舗への休業要請などに実効性を持たせることを狙うが、人権や営業の自由を制約することになり、異論は少なくない。年内の議員提案を目指すが、条文に粗さが目立つこともあって成立への道は視界不良だ。(松尾博史、岡本太、小倉貞俊、小野沢健太)
 「法では強制力や権限が十分ではない。条例で精いっぱいできることを書き込んだ」
 都民ファの伊藤悠政調会長代理は9日、記者会見を開き、条例案の内容を力説した。ポイントは、行政罰(5万円以下の過料)を科す項目だ。
(1)感染の疑いがある人が検査を拒否した場合
(2)療養中などの感染者が就業制限、外出自粛要請に反して他人に感染させた場合
(3)店舗などの事業者が、休業要請などに従わずに一定人数以上の感染者を出した場合―が対象で、いずれも全国初とうたう。
 背景には、基本的に要請ベースの感染症法や新型コロナ特措法への問題意識がある。「保健所が感染者の濃厚接触者に検査をお願いしても、受けてもらえない」「愛知県蒲郡市のパブで感染者男性が『ウイルスをばらまいてやる』と訪れた」などを例に挙げ、感染拡大で緊急事態宣言下だった4~5月の休業要請中に、営業していた飲食店などがあったことも理由とした。
 他会派や都側は冷ややかにみる。罰則を科すほどの危険性が明らかでないことや、(2)と(3)は「他人に感染させたことをどうやって証明するのか」といった、条例を適用する上で根本的な問題があるからだ。
 「強制力のない休業要請に罰則を科すなんてあり得ない」(自民都議)、「実効性という視点は分かるが、何でもやってよいわけではない」(立憲民主幹部)。協力関係にある公明からさえ、「乱暴。パフォーマンスだ」と厳しい指摘が上がる。複数の都幹部は「構成要件があいまいで、罰則は無理がある」「コメントのしようがない」と漏らした。
 こうした中、都は18日、現行の新型コロナ対策条例改正案を同日開会した都議会定例会に提出した。療養中の感染者が「みだりに外出しない」ことなどを、努力義務とするにとどめた。感染症法は感染者の人権尊重を基礎としており、特措法も「制限は必要最小限」と規定。厳しくするには都内だけの特殊事情があるかなどを慎重に判断する必要があり、「都はあくまで罰則は国に法改正を求める立場」(都幹部)をとっている。

◆「私権厳しく制限、罰則のケースもあいまい」「差別を助長」

 都民ファーストの会による罰則付きの条例案に対し、有識者からはさらなる議論を求める声が上がる。
 千葉大大学院の大林啓吾教授(憲法学)は、現状の医療提供体制などを踏まえ、「過料を科すほど私権を厳しく制限する必要があるのか。罰則の対象となるケースもあいまいで、検討が十分とは言いがたい」と疑問視。「感染者が集中する東京都の動向は、ほかの自治体に与える影響も大きい。より一層に慎重な議論が必要だ」とくぎを刺す。
 自治体の条例に詳しい日本福祉大の田中優教授(地方自治論)も「緊急事態宣言が解除された現状では、条例案は踏み込み過ぎ。罰則によって差別が助長される恐れもあり、人権尊重の観点もさらに考慮しなければならない」。
 一方で、関東学院大の出石稔教授(地方自治論)は「新型コロナは命にかかわるため、ある程度の私権の制限はやむをえない。十分に議論を尽くすことが前提だが、罰則規定があった方が対策としては有意義」と評価。その上で、「本来は国が法改正をして対処するべき問題で、国の怠慢によって自治体が動かざるをえない事態になっている」と指摘した。

◆都民ファ条例案の罰則規定(要旨)

・感染が疑われる人への検査命令を可能とし、正当な理由なく拒否した場合
・陽性者が就業制限や外出しないことの要請に従わずに、他人に感染させた場合
・事業者が新型コロナ特措法に基づく休業要請などに従わずに、一定人数以上の感染を起こした場合(感染防止対策を順守しているときは除く)
→いずれも5万円以下の過料

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