「休業手当6割以上」なのに実際は4割 70年前の政府通達が影響も<コロナ禍 どう守る 仕事 暮らし>

2020年9月23日 05時50分
 新型コロナウイルスの感染で飲食店の休業が長期化する中、休業手当の金額が少ないとの声が相次いでいる。一般に給料の「6割以上」として知られるが実際は4割程度にとどまり、生活保障の役割を果たせていないからだ。70年以上前の政府通達に基づいた計算方法が原因で、不合理だとの批判が強い。(渥美龍太)

◆会社は「法律通りに計算した」

 「この金額では生活できない」。神奈川県内の中華料理店に勤める60代のアルバイト女性は3月以降休業が急に増え、月6万円程度のバイト代が激減する状況が続いた。もともと月5万円程度の年金と合わせてぎりぎりの生活だったが、1日だけ出勤した4月分の休業手当は約1万9000円のみ。携帯を格安に切り替えるなど生活を切り詰めた。

弁当会社勤務のパート男性の給与明細。1月分(左)に比べ、コロナ感染拡大後の5月分(右)は4割まで減少

 だが、会社側は「法律通り計算した」の一点張り。女性は労働組合に入って交渉し9月に満額補償が決まった。「半年も厳しい状況が続き、限界だった。なぜあんな計算方法なのか」
 都内の弁当会社のパート社員男性(49)も、従来週4日勤務で12万円の月給だったのが、ほとんど働けなかった5月は休業手当が4万8000円余りもらえただけ。給料のカバー率は4割にとどまり、「多くの同僚が生活に窮した」。
 休業手当が少ないとの声は、労組に相次ぐ。背景には計算方法のカラクリがある。

◆給料の6割でなく平均賃金の6割

 「6割以上」とは、労働基準法で定める「平均賃金」の6割であって、給料の6割ではない。1日当たりの平均賃金は、直近の給料3カ月の合計を、土、日など休日も含め3カ月の総日数で割って算出する。休日も含めた総日数で割るためこの額は低くなるが、手当を出すのは休日を除いた勤務日数だけの決まり。さらに6割の水準になるため、月額で計算すると、支給金額は従来の給料の4割まで低下してしまう「数字のマジック」が生じるのだ。
 表で示すように給料が月30万円の人が丸々1カ月休業した場合でも、手当は12万円しかもらえない。

◆「休日は休業手当を支給する義務なし」

 1949年に出た政府通達で「休日は休業手当を支給する義務はない」とされた。70年余りたった今、長期の休業が続出する前例ない事態が起き、制度の盲点が浮かび上がった。厚生労働省の担当者は「法定の水準はあくまで最低水準。金額は労使で話し合って決めて」と言うにとどまる。
 問題を指摘してきた指宿昭一弁護士は「今の計算方式は明らかに不合理で生活保障にならない。通達を変更すべきだ」と提言する。

◆雇用調整助成金、「命綱」の役割見通せず

 休業させられた人の生活を保障する休業手当制度の問題点が、コロナ禍であらわになっている。不合理な計算方法の問題に加え、支給義務自体を果たさない企業が多く、行政の指導も徹底していない。政府は手当に補助を出す雇用調整助成金の特例措置を延長し、活用を促すが、失業防止の「命綱」の役割を果たせるかは見通せない。
 労働基準法は、企業の責任で従業員を休ませた場合、休業手当の支給を義務付ける。だが、コロナに伴う休業を「企業の責任でなく不可抗力」とみなし、支払わない企業も多い。労働政策研究・研修機構の8月時点の調査によると、休業を命じられた603人中、4分の1近くは休業手当が全く支払われていなかった。アルバイトなど非正規労働者に限れば33.4%に上る。弱い立場の人たちが補償を受けられず泣き寝入りしている実態がうかがえる。
 手当の水準についても、労働問題に詳しいNPO法人POSSEの今野晴貴代表は「本来、労働者は休業期間の賃金の全額補償を求めることができる」と指摘する。ただ周知されておらず、交渉は難航しがちだ。
 政府は雇用調整助成金による補助を拡充する特例措置を年末まで延長。手当の支払いや支給水準の引き上げを企業に促してはいる。ただ、大企業は特例を使っても4分の1は自己負担が残るため申請を渋る例が目立つ。全額が補助される中小企業でも手元資金の乏しさや手続きの煩雑さを理由に申請しない場合がある。
 手当を支払われないまま雇い止めや解雇されるケースも多く、7月の非正規就業者は前年同月比で過去最大の131万人も減った。日本総研の山田久氏は「企業が雇調金を使わず非正規の削減を始めており、失業の安全網拡充が急務だ」と警鐘を鳴らす。
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 コロナウイルス感染拡大の長期化で、わたしたちの仕事が揺らぎ働き方も激変している。雇用の最前線に迫り、仕事と暮らしを守るための安全網とルールのあり方を探る。(この企画は随時、掲載します)

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