認知症基本法案 進まない国会審議 人権守る羅針盤、成立願う

2020年9月23日 07時46分

認知症基本法案への要望書を超党派の議員に渡す藤田和子さん(右から2人目)=2月6日、衆議院第1議員会館で(日本認知症本人ワーキンググループ事務局提供)

 認知症の人が地域社会の一員として尊重される社会づくりを目的に掲げた認知症基本法案が、昨年六月に自民、公明両党によって国会提出されて一年余り。新型コロナウイルス対策などで翻弄(ほんろう)された先の通常国会で継続審議となった。九月は世界アルツハイマー月間。認知症の人や支援者は「基本法成立に向けて、丁寧に議論を重ねてほしい」と行方を見守っている。 (五十住和樹)
 基本法は、その行政課題の「親法」として施策の方向を示す法律。参議院法制局によると「憲法と個別法との間をつなぐものとして、憲法の理念を具体化する役割をしている」という。
 国立国会図書館の日本法令索引で法律名「基本法」で検索すると、現行法だけで五十六本。教育基本法や少子化社会対策基本法、障害者基本法など政策の基本的枠組みを示したものばかりで、議員立法が目立つのも特徴。特定の疾病に関する基本法も既にある。
 「認知症にならないことに焦点を当てるのでなく、認知症の人が自分らしく暮らしていける共生社会の考え方を大切にしてほしい」
 一般社団法人日本認知症本人ワーキンググループの代表理事として、法案作成で要望を続けてきた藤田和子さん(60)は訴える。藤田さんは四十五歳で若年性認知症の診断を受け、認知症への偏見をなくすよう発言し続けてきた。
 同グループは昨年十月、法案成立を後押しするため「認知症の私たちからの期待と要望」を公表した。基本法の目的や理念に「人権」を明記すること▽認知症「予防」の表記を全国民が認知症に希望を持って向き合うために「備え」に変えること▽提出法案では努力義務となっている自治体の認知症施策推進計画策定の義務化−の三点だ。藤田さんは「認知症の人と一緒に作り上げるようにして」と審議に参加する機会を期待している。
 法案は自民、公明両党が共同提出した。第一条に「認知症の予防等を推進しながら、認知症の人が尊厳を保持しつつ社会の一員として尊重される社会の実現を図る」と目的を説明。第三条では基本理念として「常に認知症の人の立場に立ち、認知症の人およびその家族の意向の尊重に配慮して施策を行う」などとした。
 施策は教育、地域づくり、雇用、保健、医療、福祉などの関連分野の総合的な取り組みとし、公共交通や金融機関、小売業者など日常生活のサービスを提供する事業者に、認知症の人への「必要かつ合理的な配慮」を求めた。
 「危ない」「道に迷う」と家族に外出を止められ、買い物も友人との会食も自由にできない認知症の人は少なくない。認知症になっても今まで通りの生活を続け、自分らしく生きるためには社会全体で支える必要がある。「基本法はそれを保障する法律です」と藤田さん。
 「与党案にこだわらず、いい案をまとめたい」と法案提出者の一人、田村憲久厚生労働相(55)。「与党案を基に新たな法案として出し直すことも含め超党派で検討中。法の理念に『人権』を盛り込むことや、審議の中で認知症の人の意見を聴く場所をつくることも超党派で考える」と話す。だが国会審議では政府提出法案が優先され、成立の時期は不透明だ。
 「基本法は認知症の人の目線に立ち、人権を守る羅針盤」と認知症介護研究・研修東京センターの永田久美子部長(60)は言う。「認知症になっても外出の自由や健康で文化的な生活の確保など、当たり前の人権を守るための基本法。国民一人一人が自分事として希望の持てる法案が必要です」

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