厚労省の啓発ホームページに正規の大麻栽培農家が反発「誤解・偏見を助長」

2020年9月23日 13時50分

夏場の大麻草の刈り取り風景=栃木県那須町の大麻博物館提供

 芸能界などで大麻汚染が広がる中、厚生労働省が大麻草の違法栽培をしないよう啓発したホームページ(HP)の内容が、正規に大麻草を栽培する農家への誤解や偏見を助長すると反発の声が上がっている。本紙などの指摘を受けた同省は掲載内容を見直す検討を始めた。 (編集委員・椎谷哲夫)

大麻の違法栽培をしないよう呼び掛ける厚労省のホームページの冒頭部分。ベランダでの違法栽培と、正規の農家が栽培した大麻の写真が同列に掲載されている

◆違法栽培と同列に写真を掲載

 厚労省監視指導・麻薬対策課が作ったHPのタイトルは「大麻栽培でまちおこし!?」。「大麻を利用してまちおこしができる話が静かな広がりを見せている」として、それを戒める内容だ。大麻は幻覚や学習能力低下を引き起こし、違法栽培や所持には刑事罰が科せられることなどを説明している。
 しかし、HP冒頭の表紙部分には「ご注意ください!」として、ベランダでの違法栽培と、正規の農家が栽培した産業用大麻の写真を同列に掲載。さらに「大麻栽培の現状」のページには「重労働です」「畑に入ると酔っ払ったような症状になる」といった表現がある。

大麻の栽培畑に入ると酔っぱらったような症状が出るとする厚労省のホームページ。栽培農家は「事実と異なる」と反発している

◆伝統支えてきた農家は「ショック」

 国内には免許を持って大麻草を栽培している農家がいる。大麻草の茎の繊維からつくる麻糸は、皇室の宮中祭祀さいしや神社のしめ縄、おはらいで神職が手にする大麻おおぬさ、大相撲の横綱の化粧回し、花火の火薬原料などに使われている。げたの鼻緒や漁網にも使われ、日本の伝統文化を支えてきた。
 全国最大の大麻草の生産地・栃木県で、江戸時代から数えて7代目という鹿沼市の栽培農家大森由久さん(71)は「畑で酔うことなど絶対にない。重労働という言い方もおかしい。伝統文化を守っているプライドをよりどころにやってきたので、ショックです」と肩を落とす。
 大森さんの麻糸を使っている熱田神宮(名古屋市)の横地利彦権禰宜ごんねぎも「これでは国産の麻を作ろうという農家がいなくなります」と嘆く。

◆産業用は幻覚成分少ないのに…「栽培面積を増やしたくない国の意図」

 また、三重県は県内で生産された神事用の麻糸を県外に提供することを認めていない。「県外の神社にまで提供する社会的有用性は低い」(薬務感染症対策課)という理由だ。同県伊勢市の栽培農家に技術指導などをしている「伊勢麻振興協会」理事を務める新田均・皇学館大学教授は「HPにも見られるが、栽培面積を増やしたくないという厚労省の意図を感じる。これを県側が過度に忖度そんたくしているのではないか」と話す。
 元々、国内の産業用大麻は幻覚成分の「テトラヒドロカンナビノール(THC)」が極めて少ない。中でも1982年に栃木県が開発した無毒大麻と呼ばれる品種の「とちぎしろ」は、国内生産の9割を占める。
 厚労省の関東信越厚生局麻薬取締部鑑定課も昨夏、日本法科学技術学会誌に「仮にとちぎしろなどの繊維型大麻草から製造したBHO(抽出物)を摂取したとしても、THCによる幻覚作用はほとんど得られないことが推察された」との検証を発表している。
 厚労省の担当者は「HPの意図はあくまでも違法栽培を阻止すること」としながらも、表現の変更を含む内容の見直しをする考えを示している。

 国内の大麻栽培 1948年制定の大麻取締法は、都道府県知事から「大麻取扱者」の免許を得た者以外の栽培や譲渡、研究用の使用、所持等を禁止している。当時の連合国軍総司令部(GHQ)は全面禁止を要求。政府は栽培農家を守るため1年更新の免許制にした。更新時の審査では、立ち入り検査や作付面積の報告義務などが課せられ、監視カメラやフェンスの設置を課す県もある。54年に全国で約3万7000人いた栽培農家は、需要減と安い中国製麻糸や化学繊維に押され、2014年には33人にまで減少した。

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