車いす変身 人力車に 装置一つで避難スムーズ 長野の会社が製造

2020年9月24日 07時00分

JINRIKIの仕組みを説明する中村さん(右から2人目)=名古屋市中村区で

 車いすを人力車に変える装置が注目されている。その名も「JINRIKI(じんりき)クイック」。市販されているほぼ全ての車いすに着脱でき、坂道や段差などもスムーズに乗り越えられる。災害時の避難に備え、車いす利用者の家庭などに配備する自治体や、一押しの防災グッズとして専用の売り場を設ける百貨店も出てきた。 (平井一敏)

■段差楽に移動

 この装置はステンレスとアルミでできた長さ一メートルほどのL字形の二本の棒。車いす前部の左右のパイプに取り付け、前でつなげて持ち手にし、介助者が引っ張る。てこの原理により、女性や子どもでも楽に前輪を浮かせて進むことができ、段差なども簡単に通過。体の不自由な人や高齢者らの移動のほか、リヤカーのように車いすに物品を載せて運ぶことにも役立つ。
 開発したのは株式会社JINRIKI(長野県箕輪町)社長の中村正善さん(62)だ。二〇一三年に発売し、三重県や愛知県などの五十以上の自治体を中心に約五千セット(棒と接続部品)を販売した。南海トラフ巨大地震で津波被害も想定される三重県熊野市は一三年に七十二セットを導入し、希望した市内の車いす利用者らに無償貸与。市の担当者は「自力で逃げられない人が素早く避難できるようになる」と装置の有効性を説明する。
 車いすを利用者自身がこぐ際や、介助者が後ろから押す場合は、わずか一センチほどの段差でも、車いすの小さい前輪が引っ掛かって進みにくい。地震で道がでこぼこになるなど、「災害現場は悪路ばかり」と中村さんは指摘。「移動手段がないからと、避難を諦めていた人も多いはず」と話す。
 階段を上り下りする場合は通常、車いすを四人以上で持ち上げなければいけない。七月に熊本県で起きた豪雨災害では、特別養護老人ホームで車いすの入所者ら十四人が犠牲になった。中村さんは「この装置を使えば、二人の介助で階段を移動できる。助けることができたのでは」と語る。
 中村さんはもともと東京のシステム開発会社に勤めていた。長野・上高地の活性化事業に関わる中で、車いすの人も来やすくしようと、リヤカーをヒントに装置の仕組みを思い付いたという。「自然の中を全部バリアフリーにはできない。車いすの方を移動しやすくすればいいと考えた」
 ちょうどそのころの一一年三月、東日本大震災が発生。約二万人が犠牲になり、健常者よりも高い割合で障害者が亡くなったことも知った。子どものころ、小児まひだった、今は亡き弟の車いすを押していた記憶もよみがえり、「装置を製品化して人の役に立ちたい」と震災の一カ月後に会社を退職。私財をなげうって起業し、一人で試作を重ねて世界特許も取得した。

■展示施設開店

 これまで協力業者を通じて販売してきたが、名古屋市中村区の名鉄百貨店本館八階に二十三日、初のショールームがオープン。装置を展示し、実際に段差などを通過する体験もできる。装置を付けた車いすで登山などを楽しむ人たちの様子も常時、映像で紹介されている。
 中村さんは「車いす利用者の行動範囲が広がり、観光にも役立つ」と強調。「多くの人が出掛けること、避難することを諦めずに済むようにしたい」と普及を期待する。じんりきクイックの定価は五万四千七百八十円。

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