一人親で育ててくれたゲイの父に感謝<かぞくのカタチ㊦>

2020年9月25日 05時55分

行きつけのバーで息子の文貴さん(左)と話す小吹文紀さん=東京都新宿区の「TRAP’」で

◆ハタチを祝って、息子と親父のはしご酒

 息子の20歳の誕生日は、同性愛者らが集う東京・新宿2丁目や上野のゲイバーを10軒はしごした。
 「自分がお世話になった店で息子を祝いたくて」。父の小吹文紀こぶきふみのりさん(49)が話すと、横で息子の文貴ふみたかさん(20)が照れ笑いを浮かべた。「20時間付き合って、きつかったですよ」
 小吹さんは結婚前、男女ともに交際経験があった。女性と結婚し文貴さんが生まれたが、文貴さんが3歳の時、父子家庭に。結婚生活は長くは続かずに数年で離婚した。自分のセクシュアリティー(性のあり方)は当時、「LGBTのどの枠にも当てはまらない感じ」だったという。今はゲイと自覚している。

◆「周りと違う? でも、それがなんだ」

 物心ついた文貴さんは「うちは周りとは違うな」と思った。でも、それがなんだ、とも感じていた。思春期になり、父親がLGBT支援の活動を始めた後も、父からゲイと直接聞いたことはない。「父は父。セクシュアリティーは単なる事実。もし友達や周りの人がそれで離れていったら、それまで」とあっさりしている。
 小吹さんは東京都江戸川区で、両親と同居しながら文貴さんを育てた。父子家庭であることを理由に息子が嫌な思いをすることがないよう、学校行事には必ず出た。「息子の同級生の人気者になろうって頑張りました」
 当時は、スポーツクラブでダンスのインストラクターや営業をしていた。子育てで早めに帰宅すると、職場で「使えないやつ」と言われたこともある。主体的に育児をする「イクメン」は周囲にはいなかった。ゲイのコミュニティーでは、子どもがいることで疎外感も味わった。

◆「性別や概念が邪魔しない世の中を」

 4年前、保険業界に転職。勤務先の損害保険会社が配偶者の規定に同性パートナーを含める変更をし、喜んでくれるお客さんを間近で見た。「仕組みを変えることで楽になる人がいる」と実感した。ストレスがないと思っていた自分も、世の中の変化を感じ、ふっと体が軽くなった。
 職場があった豊島区でLGBTの支援団体をつくり、区の男女平等推進センター運営委員としても、性的少数者への差別禁止の条例制定にこだわった。
 仕事では一昨年、保険代理店に移り、今年5月、同性パートナーを受取人にする手続きを簡単にし、エイズウイルス(HIV)陽性者やホルモン療法を理由に加入を断らない「パートナー共済」の加入募集を始めた。
 こうした父の仕事や活動を見て、文貴さんは「性別やゲイかどうかなんて概念が、邪魔しない社会になってほしい」と語る。
 コロナ禍で以前より頻繁には行けないが、毎月父に付き合い、ゲイバーに飲みに行く。「育ててくれた感謝を返すのは、当たり前だから」。さらりと言う息子に、父は目を細めた。(この連載は奥野斐が担当しました)

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