東京大会がどうなるにせよ、普及させたい「パラリンピック教育」の価値

2020年9月25日 09時50分

<超える・障害者スポーツの今>

華やかにフィナーレを迎えたソチ冬季パラリンピックの閉会式=2014年3月16日(代表撮影・共同)

 英語の「Impossible(できない)」に小さなアポストロフィーを一つ加えると「I’m possible(私はできる)」になる。2014年のロシア・ソチパラリンピックの閉会式で、空中に浮かべた文字に、足の不自由な男性が綱をよじ登ってアポストロフィーを足した。パラリンピックの価値を伝える象徴的な演出だった。
 文法的には正しくないが、この機転の利いた言い換えは以前から英語圏で知られていたという。ソチでの演出にも刺激され、17年に国際パラリンピック委員会(IPC)の初の公認教材として発表されたパラリンピック教育の教材は「I’m POSSIBLE」と名付けられた。
 パラリンピックの価値をどう伝えるか。障害のためできないと思われることにも挑戦し、可能にしていくパラアスリートの姿から、社会で多様な人が生きていくための工夫や必要な考え方を伝えるのがパラリンピック教育だ。公認教材は、東京五輪・パラリンピックを控える日本パラリンピック委員会(JPC)が、日本財団パラリンピックサポートセンターの支援を受け、IPCに働き掛ける形で開発が進んだ。
 国際版としてできた英語の教材は主に小学生向け。パラリンピックで活躍するアスリートが登場し、競技の特徴を学んだり、「クラスに障害者がいたらどんなルールでゲームをする?」と問い掛けたりする内容だ。

今年6月に無償配布が完了した、パラリンピック教育の中学生・高校生向け日本版教材(I’m POSSIBLE日本版事務局提供)

 当初は日本でもそのまま翻訳して使う予定だった。ただ、問い掛けへの答えをどう示すかなど、授業の進め方が現場に任される部分が多かった。JPCで教材を担当する日本障がい者スポーツ協会の安岡由恵国際課長は「日本の授業では間違えるのを恐れる。先生も知らないことを教えるのをためらう傾向がある」と、工夫の必要を感じた。
 日本版は再編集し、「結論は出なくてもよい」と教師用のガイドに加えるなどした。さらに現場の要望を受け中高生向けも作成。今年6月、全国の小中高校への無償配布が完了した。教材は公式サイトからもダウンロードできる。
 今年開催予定だった東京パラリンピックに向け、これまでは作成と配布で手いっぱいだったという。今後はどう普及させ、長く使ってもらうかが重要。安岡さんは「普遍的なテーマで、時間がたっても伝えられる内容。パラリンピック教育というと大会までにやらなければと思う先生もいるが、大会をきっかけに考え始めてほしい」と話す。
 新型コロナウイルス禍で子どもたちの生活も長く制限されている。その不条理さ、不自由さは、パラアスリートたちの境遇にも通じる。事務局には「今だからこそパラリンピック教育をやりたい」という声も届いているという。

 つぶや記 東京五輪・パラリンピックの開催の是非は揺れ続けている。大会がどうなるにせよ、パラリンピックが本来持つ意義、伝える価値は変わらない。コロナ禍に見舞われた子どもたちに残すレガシー(遺産)が、かけがえのないものになることを願う。(神谷円香)

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