地元議員の証言、検察主張通り 処分見送りでおもねる?<河井夫妻事件>

2020年9月26日 05時50分
 昨年7月の参院選広島選挙区を巡る買収事件で、公選法違反の罪に問われた参院議員河井案里被告(47)=自民党を離党=の東京地裁での公判で、証人尋問に呼ばれた地元議員らが「選挙運動を依頼する趣旨だと思い、現金を受け取った」と異口同音に証言している。買収の趣旨を否定する夫妻と相反し、検察側の主張に沿う内容。検察は地元議員らの刑事処分を見送っており、識者から「過度に検察側におもねる証言につながっていないか」と懸念する声も上がる。(山田雄之、山下葉月)

◆「投票と票とりまとめへの報酬」

 「私が案里さんに投票することと、案里さんへの投票を取りまとめることへの報酬だと思いました」「案里さんの選挙を応援してほしいという思いを感じた」
 夫の元法相克行被告(57)=自民党を離党、衆院広島3区=と分離された案里議員の公判で、これまで証言台に立った地元議員と前町長の計8人全員が、買収の趣旨を認識していたと証言した。夫妻が配ったとされる現金は「案里議員への投票および投票取りまとめなどの選挙運動を依頼する報酬」とする起訴内容に沿う。

◆「その通りです」検察官に同調も

 「案里議員から『あれ、なかったことでいいよね』と言われ、口裏合わせだと感じた」「領収書を渡そうとしたら『いらなーい』と断られた」など生々しい証言も多い。だが、弁護側に「供述調書と証言で内容が違うのはなぜか」と追及され言葉に詰まった広島県議が、検察官に「供述調書の作成後に思い出したんですよね」と促され、「はい、そうです。その通りです」と同調する場面もあった。
 検察はこの事件で、現金を受け取ったとされる地元議員ら100人を誰ひとり起訴しておらず、克行元法相側は検察と地元議員らの間には「裏取引」があるのではと疑っている。

◆記憶のままに話すと修正迫られる

 証人尋問を控える地元議員の1人は取材に、証人尋問の打ち合わせのため検察庁に呼ばれた際、最初に検事から「記憶通りに話してみてください」と言われたと振り返る。
 しかし、地元議員が記憶のままに話すと、検事はたびたび「そこ、以前取った供述調書と違いますよ」と口を挟み、暗に修正を迫ってきたという。修正を拒むと「買収罪であることには変わりありませんよ」と言われたといい、「威圧的だなと感じた」と語った。
 ある検察幹部は、事前の打ち合わせについて、「効果的な尋問の準備として、証人に公判のポイントを伝えたり、記憶を喚起してもらったりすることはある。決して供述の刷り込みをしているわけではない」と強調する。

◆裁判は供述の信用性を慎重に判断

 ベテラン裁判官の1人は「証人が経験した事実を覚えている範囲で話してもらうことが、証人尋問のあるべき姿だ。検察が作成した供述調書を丸暗記して話せば、生き生きとした証言でなくなる。裁判官は証言の信用性を慎重に判断することになるだろう」と話す。
 神奈川大の白取祐司教授(刑事訴訟法)は「証人尋問が、検察がお膳立てした料理を披露する場になってはいけない」と強調。刑事処分が見送られていることを踏まえ、「検察に命運を握られていることが、地元議員らの証言内容に影響を与えているとすれば問題だ」と指摘した。

◆弁護人解任の克行元法相、公判再開見通せず


河井夫妻の公判は25日、初公判から1カ月が経過した。弁護人を解任した克行元法相の公判は再開の見通しが立っておらず、今後も案里議員の審理が先行して進められそうだ。
 夫妻の公判は、起訴から100日以内の判決を目指す「100日裁判」の対象。8月25日の初公判から併合して審理が進められてきたが、元法相が今月15日に突然、弁護人を解任したことで分離された。
 以降の案里議員のみの公判では、案里議員から現金を受け取ったとされる地元議員5人のうち3人の証人尋問を実施。元法相が現金を配ったとされる地元議員の証人尋問もあったが、弁護側は「関連性がない」と一切質問しなかった。
 高橋康明裁判長は「案里議員の審理にふさわしい形にすべきだ」として、次回10月1日の公判で、元法相から現金を受け取ったとされる証人の尋問の必要性など今後の審理計画の見直しをすることにしている。
 元法相の公判について、ある裁判官は「起訴から初公判まで1カ月半かかった。新たに就く弁護人も、証拠の読み込みや元法相との弁護方針の確認などの準備が必要。早くても公判再開は11月になるのでは」と見通した。

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