言論の不自由 香港、そしてグローバル民主主義にいま何が起こっているのか ジョシュア・ウォンほか著

2020年9月27日 07時00分

◆青年リーダーが語る分岐点
[評]中沢けい(作家)

 本書の著者黄之鋒(ジョシュア・ウォン)氏は一九九六年生まれ。香港が英国から中国へ返還される九カ月前に生まれた青年だ。十四歳で「愛国教育」必修科目化に反対を表明。SNSを駆使した運動で「愛国教育」カリキュラムの無期延期を勝ち取る。二〇一四年には香港の自治権を求める雨傘運動で指導的役割を果たし米国の複数の雑誌で世界でもっとも影響力のあるリーダーのひとりに選ばれた。
 香港の自治権を求める運動の主要人物として日本では、日本語に堪能で日本語のツイートでも知られる周庭(しゅうてい)さんが有名だ。周庭さんは日本語のスポークスパーソンであり、黄之鋒さんは英語のスポークスパーソンを担当し、世界各国へのロビー活動を行っている。香港の自治権を求める運動を香港内部に留(とど)めず、SNSなどを使い国際的な理解を求めるところにその特徴のひとつがある。
 中国の現代美術家アイ・ウェイウェイは「この世代は、自由とは当たり前の状況ではなく、絶えざる努力と闘いを通して達成されるものであることを明確に理解している」と本書の序文で述べている。
 アニメやゲームを楽しみながら同時に大規模な社会運動を動かす黄之鋒の語り口は軽妙で洒脱(しゃだつ)。一国二制度の香港で何が起きているのか。中国政府は香港の動きをどう見ているのかをなかなか愉快に知ることができるのが本書だ。
 だが、現在の香港では黄之鋒の本は禁書となっている。六月に成立した国家安全維持法で社会運動が厳しく取り締まられるようになった。それでもデモは続き、昨年六月から延べ一万人を超える人が拘束されたと報じられた。
 経済成長を遂げれば中国も自然と民主化の道を歩むと考えられたのは楽観的過ぎたようだ。果たして言論の自由を含む自治権を失っても、香港はアジアの中心的な金融都市としての地位を保ち続けられるのか否か、大きな分岐点に差し掛かっている。香港は経済成長する中国の試金石だ。
 九月二十四日、黄氏は昨年十月の無許可デモ参加などの容疑で逮捕された。
(中里京子訳、河出書房新社・1760円)
1996年生まれ。香港の民主化活動家。2018年、ノーベル平和賞候補に。

◆もう1冊 

NHK「ETV特集」取材班著『証言 治安維持法』(NHK出版新書)

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