羽田新ルート 80デシベルでも住宅の防音工事は補助の対象外、国の「裏技」が明らかに

2020年9月27日 05時50分
<不信の空路 羽田騒音訴訟(上)>

羽田新ルートの飛行確認のため、都心上空を飛行する旅客機=2月撮影

◆うるさい、窓が開けられない

 高度は約300メートル。自宅付近の上空を飛ぶ航空機は、333メートルの東京タワーよりも低い。東京都品川区南大井に住む橋本悦夫さん(69)は、低空飛行による騒音が国の基準に収まっていることに納得できずにいる。
 羽田空港の発着便を増やすため、都心上空を低空で飛ぶ新ルートの利用が3月末から始まった。南風の時の午後3時から午後7時まで、着陸機が都心を飛べるようになった。
 「近所の工事用の騒音計では、工事がない時でも飛行機が飛ぶと86デシベルなんて数値がどんどん出る。70デシベルはざらに超える。気になるというレベルではない。こんな騒音を国が良しとしていることが、住民として全く理解できない」
 80デシベルの騒音は窓を開けた地下鉄車内と同程度。うるさくて窓を開けられず、テレビや電話の声は聞こえにくい。子どもを寝かしつけられない母親も多いという。「説明会でヘッドホンから聞いた音と体感がぜんぜん違う」「国は騒音直下で実態を見てほしい」。住民は口々に訴える。

◆時間を限定、騒音値下げる

 国土交通省は騒音直下の学校や保育園、病院などの防音工事を補助するが、住宅は対象外としている。なぜなのか。

羽田空港への新ルートを低空飛行する飛行機と、それを見つめる保育士と園児=4月、東京都港区で

 航空機騒音防止法によると、住宅の防音工事は、航空機騒音のレベルを示すLden(エルデン、時間帯補正等価騒音レベル)が62デシベル以上の場合が対象。国が二重サッシ化など防音工事費の大半を助成する。
 Ldenは、1日の騒音エネルギーの総量を基に計算した1秒当たりの値だ。一方、都心上空飛行は1日3時間程度に限定され、便数もおのずと限られる。このため計算の基になる騒音の総量は減り、瞬間的に大きな騒音が出ても、Ldenでは数値が低く抑えられる仕組みだ。
 時間限定の都心上空飛行について、国交省のある職員は「防音工事をせずに済むよう考え出した方法。終日で飛ばせば、膨大な家屋の防音工事が必要な数値になってしまい、都心で飛ばすのは不可能になる」と明かす。
 Ldenの計算方法を逆手に取った「裏技」で実現させた、都心上空飛行の解禁。騒音防止法の問題は解消できても、住民の不安や機体の威圧感、反対の声は消えていない。

◆苦情は3カ月で3374件

 都心上空ルートの利用が始まると、苦情が殺到した。国交省によると、国への苦情や問い合わせは、6月末までの3カ月ほどで3374件。反対する市民団体も20以上発足した。
 現在、都心ルートを飛ぶ便数は、新型コロナウイルスの影響で当初想定の3分の1程度とみられる。「今の状態でこれだけ問題になっているのなら、コロナ禍が収束して今の3倍の便数が飛んだらどうなるのか」。ルート直下に暮らす住民だけでなく、国交省の官僚も気をもんでいる。
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 羽田新ルート直下の住民が国に新ルート運用停止を求めた行政訴訟の第1回口頭弁論が、28日に開かれる。機体からの落下物の危険性や騒音被害などが争点。法廷での議論開始を前に、これまでの経緯や問題点などを検証する。(宮本隆康)

羽田の都心飛行ルート 南風時、午後3~7時のうち3時間程度で利用。1時間当たり最大44機の着陸機が飛ぶ。着陸機は安全のため緩やかな角度で高度を下げる必要があり、低空飛行になる。国土交通省は、新ルート導入で羽田の1日当たりの発着枠を50便増やせるとしている。

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