羽田新ルート 「逆らえば飛ばされる」国交省を押し切った官邸

2020年9月28日 06時00分
<不信の空路 羽田騒音訴訟(下)>

羽田空港への新ルートの運行が始まり、都心上空を飛ぶ旅客機。左は東京都庁=4月3日、東京都内で、本社ヘリ「おおづる」から


◆実現不可能が常識だったが

 「本当に無理だと言うんだな」。第2次安倍政権初期、2014年ごろの首相官邸。羽田空港の発着枠増加を巡り、難しさを訴える国土交通省幹部に対し、官邸幹部は考えを変えるよう迫った。
 複数の国交省関係者によると、東京都心上空の飛行を解禁した新ルートは、羽田増便を求める官邸の意向で計画された。
 それまで羽田の飛行ルートは、できる限り海上に設定してきた。住宅密集地の都心上空を飛ぶことで、騒音問題が起きるのを避けるためだった。
 国交省OBは「都心を飛ばせば発着数を増やせるのは、何十年も前から省内の常識。だけど、こんなに多くの住宅の防音工事はできないし、これまでは実現不可能と考えられていた」と振り返る。

羽田空港への着陸の際にタワーマンションのすぐそばを通る飛行機=4月3日、東京都港区で

 都心上空を飛行するルートの構想は以前からあった。国交省所管の財団法人「運輸政策研究機構」の研究者らが09年、羽田発着を増やす方法として初めて発表している。当時は成田空港の発着枠が現在よりも少なく、首都圏の空港容量不足が指摘されていた。
 しかし、国交省はこの案を約5年間、顧みることがなかった。策定に関わった有識者は「当初は国交省に全く相手にされず『机上の空論』とさえ言われた。できない理由ばかり言っていた」と明かす。

◆「内閣人事局制度さえなければ…」

 「なのに、突然、逆のことばかり言うようになった」。一変した国交官僚の姿勢に苦笑いする。国交省は14年6月、都心ルートの計画を発表した。
 省内には、13年9月に招致が決まった2020年東京五輪で航空需要の増加が見込まれ、利便性を高めて首都圏の空港容量を増やせるという積極論もあった。また、航空機の性能が向上し、1機当たりの騒音は以前より小さくなっていた。さらに、飛行を1日3時間程度に限定し、騒音の総量を抑えることで住宅の防音工事が不要となる「裏技」を編み出した。
 ただ、大きな政策転換となる都心飛行の解禁について、国交省の元幹部は「安倍政権は成田よりも羽田重視。官邸に逆らえば、飛ばされるからノーとは言えない」「(官邸が各府省幹部の人事を決める)内閣人事局制度さえなければ、断れたのかもしれないが…」などと口をそろえ、官邸主導で進んだと証言する。

◆説明会は形だけ

 「羽田問題訴訟の会」の須永知男代表(73)は「住民説明会はマスコミを入れず、計画ありきで内容を述べるだけ。質問にろくな返事もしなかった」と国交省の姿勢を批判した。
 計画の当初から「官邸の方ばかり向いて仕事をしている」と懸念していた国交省関係者は指摘する。「官邸だけでなく、東京都や区も『羽田は近くて便利』と言って発着増を求めてきた。便数が増えれば当然、騒音も増える。騒音問題をどう考えていたのか」(宮本隆康)

関連キーワード

PR情報

社会の最新ニュース

記事一覧