揺さぶり不認定 SBS理論の再検証を

2020年9月29日 07時52分
 「乳児を揺さぶり脳にけがを負わせた」として傷害罪に問われた母親に、岐阜地裁は無罪を言い渡した。同様の判決が相次ぐ。「乳幼児揺さぶられ症候群(SBS)」理論への依存に対する警告だ。
 SBS理論とは(1)硬膜下血腫(2)網膜出血(3)脳浮腫−の三症状があれば、暴力的な揺さぶりによるものと推測してよいという考え方。
 岐阜の公判では、二〇一六年五月、自宅から病院に運ばれた時に三症状のあった生後三カ月の長男が、母親に揺さぶりを受けたか否かが争われた。長男は、回復の見込みのない重症心身障害の状態となった。
 母親は、逮捕時から一貫して揺さぶりを否認し、法廷でも「目を離した五分間に、高さ三十五センチのソファから落ちた」と供述。検察側は、SBS理論に従って「母親が激しく揺さぶったとしか考えられない」と主張した。
 判決は、長男のコンピューター断層撮影(CT)画像を詳細に検討するなどして「ソファからの落下で三症状が生じた可能性を否定しきれない」と母親の供述を認め、逆に検察側主張は「揺さぶりには合理的な疑いが残る。犯罪の証明がない」と退けた。
 つまり、「暴力的な揺さぶりがあれば、三症状が出る可能性は高い。しかし、逆に三症状が出ていても、暴力的な揺さぶりがあったとは言い切れない」ということであろう。
 SBS理論は一九七〇年代前後に英米で広まり、日本では二〇〇〇年代から刑事事件での立証に用いられるようになったという。しかし、欧米では同じころ学会などで疑問視され始め、スウェーデンで一四年、無罪判決が出た。日本でも同年から今回を含めて十八件の無罪判決が続き(一部は確定)、SBS理論に依存した捜査に赤信号がともる。
 厚生労働省は一三年、「子ども虐待対応の手引き」を改正して「原因不明の硬膜下血腫の乳幼児が受診したら、必ずSBSを第一に考えなければならない」とSBS理論重視の姿勢を示していた。しかし、その後の無罪判決の連続から、手引の見直しが必至になっている。
 ただ、虐待が疑われる子どもを診察する医師が、児童相談所への通告などをためらう可能性も懸念される。一方で、冤罪(えんざい)も当然あってはならない。厚労省や捜査当局は、SBS理論をきちんと検証し、虐待の判定の際には丹念な調査と捜査を尽くしてほしい。

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