「五輪とは」「アスリートとは」 自問自答する選手たち

2020年9月30日 06時00分
<アスリートの現在地(中)>
 東京五輪開幕まで300日となった9月26日。陸上男子100メートルの日本記録保持者、サニブラウン・ハキームは「スポーツの力」を問われるとこう言った。
 「当たり前のようにあったものがなくなると、ありがたみを感じる。よりそれが大切なんだなと意識がいくようになった。スポーツがどういうものか。その思いはコロナ前より変わったと思う」

東京五輪開幕まで300日となった26日、大会へ意気込みを語る陸上男子短距離のサニブラウン・ハキーム=東京都江東区で


 新型コロナウイルス感染拡大を機に、アスリートの誰もが「五輪とは何か」「アスリートの価値」をあらためて考えている。選手の思いは人によってさまざまだ。

◆世間の声を受け止めて

 延期された東京五輪の開幕へ、ちょうどあと1年となった7月23日には、女子ハーフマラソンの日本記録を持つ新谷仁美(積水化学)は持論を述べた。「国民の皆さんが反対するなら、五輪をやる必要はないと思う。日本でやる以上は、選手よりも全国民がやりたい、応援に行きたいという思いでなければ成り立たない」
 当時は、新たな感染者が再び増え始め、1年後の五輪開催へ各種世論調査で否定的な声が多かった。アスリートは世間の声に敏感だ。
 同じ時期、男子マラソンの日本記録保持者、大迫傑(ナイキ)は「五輪は大きな目標の一つであるが、なければ次の目標に向かっていくだけ」と淡々と話した。「僕らがいま見せられることは、この状況下でしっかり努力を続けること。できた時間で新しいことや、後輩のために動いていく姿を見せたい」
 こうした選手の揺れる思いについて、日本陸連の尾県貢専務理事は「世論調査で五輪中止、延期と見たら、競技をすることはエゴではないかと考える選手もいるだろう。本当はみんな(五輪を)やりたいと思う。でも、世の中に支えられている気持ちがあるからこそ、さまざまな発言になる」とおもんぱかる。

◆医療現場のアスリートは胸中複雑

8月上旬、NTCで特訓練習を行う東京五輪ボクシング女子ミドル級代表候補の津端ありさ=日本ボクシング連盟提供

 医療現場で働きながら、東京五輪を狙う選手がいる。女子ボクシングの津端ありさ(西埼玉中央病院)は、感染者の数が2度目のピークを迎えていた8月上旬、同僚や患者から激励されることが多いと明かし、「私の(活躍する)姿を見て『頑張ろうと思えるよ』と言ってくれる。五輪に出場して、みんなの励みになればいい」と話した。
 しかし、胸中は複雑だった。看護師の立場で「医療現場で働く身としては正直(五輪開催は)難しいかな」。選手目線では「(開催可否を)考えてしまうとモチベーションが上がらない。あるつもりで必死に練習する」。
 五輪は選手が目指してきた夢の舞台。でも、この状況下で開催していいのか。選手は何を見せられるか。競技と向き合いながら、自問自答を繰り返している。

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