多摩川の今 昨年の台風19号で被害 世田谷・大田区で40戸浸水、1万7000人避難

2020年9月30日 07時09分
 昨年十月の台風19号で大きな被害が出た多摩川の水害から間もなく一年を迎える。ふだんは穏やかな多摩川の姿を探ると、「暴れ川」の異名を持つ、別の一面が浮かび上がる。
 多摩川は秩父山系・笠取山を水源とする全長百三十八キロの一級河川。関東では勾配のきつい川で知られ、田園調布(上)水位観測所(大田区)と約十五キロ先の河口付近の高低差は十数メートル。河口から約三十五キロ遡(さかのぼ)れば約五十メートルも高低差がある。
 昨年の水害時、同観測所では約二十四時間で水位が七メートル以上も上がり、十月十二日午後十時半のピーク時に計画高水位(その水位以下で水を流れさせることができるよう設定された水位)を四十六センチ上回る過去最高の一〇・八一メートルに達した。
 上流域の檜原(ひのはら)村など奥多摩地区で観測史上最大の降雨量を観測。都市部の下流域にも大量の雨が降り、多摩川の水位が上昇。堤防のない地域での溢水(いっすい)や、多摩川に注ぐ支流、下水道樋(ひ)管の逆流現象が起きた。勾配のきつさも急速な水位の上昇につながったという。
 昨年の水害を契機に、国や多摩川流域の自治体が進めているのが「多摩川緊急治水プロジェクト」。本年度から五年間で、増水時の水位を下げるさまざまな改修を施す。
 国交省京浜河川事務所によると、(1)河道(かどう)の土砂を掘削し、川幅を広げ、河川敷の樹木を伐採し、水位を低下させる(2)洪水時に流れを阻害している大丸(おおまる)用水堰(せき)(府中・稲城市)の改修(3)世田谷区玉川地区の堤防設置−を実施。
 流域の自治体も多摩川に流れ込む下水道の樋(ひ)水管などのゲートの自動化・遠隔操作化、排水ポンプ車の整備、土のうなどの配備を行う。
 ソフト面の対策では、同時多発的に被害が発生し、状況の把握や情報伝達、避難行動が円滑に進まないことに備えて、関係自治体を光ケーブルで結ぶ。河川監視カメラも増設する。
 多摩川の異変は自然界にも影響を及ぼした可能性がある。都島しょ農林水産総合センター(港区)が今年六月に発表した、多摩川のアユの遡上(そじょう)状況によると、今春遡上したアユは推定三十七万匹にとどまった。昨年の同三百三十三万匹から激減し、この十年間で最も少ない。台風後の産卵期に、河口から十五〜二十キロ付近の産卵場所で親魚の集まりが乏しく、同センターの担当者は「台風で産卵場所が泥をかぶり、産卵に適さなかったことが一因ではないか」と推測する。
 多摩川の歴史は水害と共に歩んできたとも言え、昨年の水害は長い目で見れば、歴史の一こまかもしれない。京浜河川事務所は同プロジェクトが完成すれば「昨年並みの増水時にも計画高水位を下回るまで水位を下げられる」といい、「ペットを飼っている、お年寄りと同居しているなど家庭ごとに事情は異なるので、自治体が出す避難勧告だけでなく、自分に合った避難方法を事前に考えておいてほしい」と呼び掛ける。
<多摩川> 全長138キロメートル。流域の山梨県、都、神奈川県には計2区22市3町3村があり、流域人口は400万人以上。流域面積は1240平方キロ。奥多摩湖でいったん貯留され、羽村取水堰で取水、都の都市用水として用いられる=写真は川崎市多摩区で、本社ヘリ「おおづる」から。

<昨秋の多摩川水害> 昨年10月12日夜、伊豆半島に上陸した大型で強い台風19号は、首都圏を直撃。気象庁は12都県の自治体に大雨特別警報を発表、大雨・洪水警戒レベルで最高の5に相当した。
 都側の左岸では、東急田園都市線二子玉川駅に近い世田谷区玉川で溢水(いっすい)が発生。周辺の0.7ヘクタールで家屋約40戸が浸水するなど、世田谷、大田両区で計約1万7000人が避難した。
 右岸の川崎市でも支流の平瀬川が氾濫し、高津区のマンション1階の住民男性が水死。市内では計3カ所で計25ヘクタールの浸水被害が発生した。川崎市市民ミュージアム(中原区)は地下収蔵庫が水没し、収蔵品が大きな被害を受けた。

昨年10月12日、多摩川の増水で水没した兵庫島公園のトイレ(手前左)=世田谷区で


◆繰り返された水害

濁流に洗われ、流失寸前の家屋=1974年9月2日、狛江市猪方地区で

 大田区や世田谷区の都側と、対岸の川崎市には、等々力(とどろき)、丸子、沼部など同じ地名の付いた地区がある。多摩川が氾濫し、流れを変え、一つの集落を分断した名残だ。
 国交省京浜河川事務所作成の年表によると、江戸時代には既に増水や大雨による橋の流失や堰(せき)の決壊が頻発。明治以降も台風による堤防の決壊などが相次いだ。
 昭和に入っても台風による氾濫や堤防決壊が続く。一九七四(昭和四十九)年九月には狛江市で堤防が長さ二百六十メートルにわたって決壊、民家十九棟が流失した。住宅が次々とのまれていく模様がテレビで全国に流れ、大きな衝撃を与えた。
 文・加藤行平/写真・戸田泰雅、北村彰
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