<わけあり記者がいく>家族、ヘルパーの代筆は不可? 思いを反映するのが選挙

2020年9月30日 07時32分

公選法の規定は違憲と国を提訴した中田さん(中央)=大阪市で

 読者には恐縮だが、私、わけあり記者こと三浦耕喜はこの原稿、ソファに寝そべって書いている。
 遊んでいるつもりはない。パーキンソン病の症状の一つで、私は起きている時間の三分の一を体のしびれに耐えることに費やす。薬である程度抑えられるが、三年近く服用していると効果のある時間が短くなってくる。このしびれとしびれの間に、食事や入浴など最低限の活動をこなす。
 取材と執筆ができるのは一日八時間程度。これも侵食されはじめた。私は「定期便」と表現しているのだが、毎日、午前十時と午後三時のそれぞれ一時間程度、左足が、特にひざの裏のしびれがマックスとなる。金縛りにあったように動かない。
 だが、調子の悪い時間帯でも最低限の仕事ができれば、余裕ができる。しびれたら、横になればいいじゃないか。今後も病気は進行することを考えれば、いい訓練だ。
 古代ギリシャの哲学者プラトンは、粘土板に向かい、筆記具を握り締めたまま生涯を終えたという。私も最期まで、ペンを握り締めていたいものだ。
 私がこうも「自分で書くこと」にこだわるのは、逆説的ではあるが、主に日本の選挙制度における「自書主義」に疑問の声を上げたいからだ。
 現在の日本の選挙では、投票用紙の枠に収まるよう、候補者名を書く必要がある。枠からはみ出したり、文字がぶれたりすると、判読不能として無効票とされかねない。
 だが、障害がある人の中には、腕が震え、枠内に書けない人が少なくない。私も両手を開くと、小刻みに震えている。やがて、私の投じた一票も、枠をはみ出し、「無効票」とされるのだろうか。
 公選法では、障害などがあり、文字が書けない人のために代筆で投票する制度がある。ただ、代筆できるのは投票事務従事者(選管職員ら)だけ。不正防止のため、二〇一三年の公職選挙法改正で、身近な家族やヘルパーによる代筆は禁止されてしまった。
 これは明らかに障害者やお年寄りに対する不利益変更ではないか。憲法一五条は「すべて選挙における投票の秘密は、これを侵してはならない」と、「投票の秘密」を保障する。だが、代筆を依頼すると、だれに投票したかを選管職員に知られてしまうのだ。
 「投票先を知られたくない」と投票を断念する人もいるだろう。先天性の脳性まひのため、自筆が難しい大阪府豊中市の中田泰博さん(47)もその一人。一六年と一九年の参院選で、ヘルパーらによる代筆を認められずに棄権した。
 「憲法の『すべて』に自分は入っていないのか」。中田さんは一七年、公選法の規定は憲法違反として大阪地裁に国を提訴。棄却され、大阪高裁に控訴している。
 昨年他界した私の母も、選挙には必ず行く人だった。晩年は認知症を患い、投票所にも行けなくなったが、一九年の参院選では投票の意思を示したため、入院先での「不在者投票」に挑戦。選管職員による代筆を試みた。だが、見ず知らずの職員に母は緊張し、結局、投票できなかった。
 全国の地方選挙では過去最低の投票率が相次いでいると聞く。コロナ禍での外出控えの影響も少なくないだろう。新型コロナは、暮らしに「政治」が直結することを浮き彫りにした一方、その政治家を選ぶ選挙に行けないつらさ、一票の重さも人々に実感させたのではないか。
 菅新政権が誕生し、「解散風」が吹き始めた。どんな「わけあり」な人でも、その人の状態に応じた方法で本人の意思をくみ取り、その思いを反映させるべきだ。政治家たちは、自分たちを選んでくれている人の中に、少なからず「わけあり」な人がいることを忘れてはならない。
<パーキンソン病> 脳内の神経伝達物質ドーパミンを作る細胞が壊れ、手足の震えや体のこわばりが起きる。多くが50代以上で発症し、国内の患者数は約16万人。厚生労働省の指定難病で、根治療法はなく、ドーパミンを補う服薬が治療の中心。服薬は長期にわたり、経済的負担も大きい。
<みうら・こうき> 1970年、岐阜県生まれ。92年、中日新聞社入社。政治部、ベルリン特派員などを経て現在、編集委員。42歳のとき過労で休職し、その後、両親が要介護に。自らも指定難病のパーキンソン病を発病した。事情を抱えながら働く「わけあり人材」を自称。父は2018年、母は19年に死去。

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