【動画あり】発祥の地・新宿の老舗「歌声喫茶」が休店 いつかまたともしびを

2020年9月30日 14時00分
 東京・新宿で発祥し、1950~60年代に全国に広がった「歌声喫茶」の老舗「うたごえ喫茶ともしび新宿店」が、新型コロナウイルスの影響で30日の営業を最後に休店する。感染状況が落ち着いたら営業再開する考えだが、いつ、どこでというめどは立っていない。それでも、同店の従業員らは「何としても次世代につなげたい」と、歌声喫茶の灯を守り抜く思いでいる。(中村真暁)

一時休業を前に予約客で埋まった歌声喫茶「ともしび新宿店」=29日、東京・新宿で

◆「苦しいときも、歌えば元気になった」

 ♪今 私の願い事が―
 「翼をください」のメロディーがピアノやアコーディオンなどから流れると、客は体を揺らし、マスク越しに歌い始めた。
 客と従業員が1つになって心地よいハーモニーを響かせる。友人と訪れた杉並区の南雲弘子さん(67)は「みんなと気持ちが通い合える」と笑顔。常連という三鷹市の鳥山広雄さん(83)は「苦しいときも、歌えば心も体も元気になった。生きる力だった。再開すれば、必ずまた来たい」と話した。
 66年前の54年12月、西武新宿駅前の食堂で、客がBGMのロシア民謡に合わせて歌いだしたことが歌声喫茶の起源とされる。間もなく新宿に登場した草分けの店「灯」の従業員たちが、各地で歌声喫茶を始めた。
 この流れをくむ株式会社ともしびが、73年に新宿店をオープンさせた。かつて3店を営業していた同社の店舗は現在、新宿店のみ。同社によると、イベントとしての期間限定開催でなく、歌声喫茶の専門店として営業しているのはともしびを含めて全国に7店、都内に2店が残るのみだ。

歌声喫茶のブームを作った「灯」で歌う若者たち=ともしび提供

◆コロナ禍で客足遠のき…入居ビル建て替えで休店決意

 コロナ前のともしびは、孫と歌い踊る人や、毎日来る人の姿もあったという。歌や司会を務める同社の寺谷宏さん(62)は「歌声喫茶では歌がうまいかどうかや年齢などにかかわらず、初めて会う人同士も肩を寄せ合える」と強調する。
 しかし、コロナ感染が拡大し始めた2月ごろから客足は遠のき、4月にいったん休店した。6月の再開後は、70人が入る店の定員を20人に減らし、週4日、1日2時間半といった限定営業を始めた。4~7月の売り上げは、前年同期比で4500万円減。入居ビルの建て替えで今秋に退出予定だったが、このタイミングでの新店オープンは難しく、休店を決意した。
 同社を支援しようという募金は今月中旬までに2000人から3800万円寄せられている。寺谷さんは「営業再開を待つ人たちがこれだけいる。相手を尊重し、認め合う歌声喫茶の文化は、人々がバラバラになりがちなコロナ禍だからこそ求められている」と話す。
 同社はネットによる動画配信や出前公演を継続し、10月17日に千葉県、22日に群馬県などで公演予定。支援募金も続ける。詳細は同社ホームページへ。

 歌声喫茶 コーヒーや軽食を取りながら、演奏に合わせてリクエスト曲などを合唱できる喫茶店。学生運動などの高まりとともにブームに。一時期は首都圏に20店ほどあったが、レジャーの多様化やカラオケ人気で下火となった。一方、90年代後半から、昭和レトロブームなどを受けて、地域住民や友人らが集まって一緒に歌う活動が広まった。こうした活動も歌声喫茶と呼ばれている。

PR情報

新型コロナの新着

記事一覧