コロナ禍克服へ連携を 演者や楽器製作者、公演関係者 都内で伝統芸能フォーラム

2020年10月2日 08時08分

東京和楽器での三味線製造の様子なども報告された=いずれも東京・上野の東京文化財研究所で

 新型コロナウイルスが多くの分野に影響を及ぼしている中で、伝統芸能の世界に焦点を絞ったフォーラム「伝統芸能と新型コロナウイルス」が東京・上野の東京文化財研究所で開かれた。能楽・邦楽の実演者、楽器作りに携わる製作者、公演の企画・制作者らが現状を報告しながら、課題を探った。 (山岸利行)
 コロナ禍で公演の中止や延期が相次いだり、注文が途絶えた楽器製造会社が廃業を決断せざるを得なくなるなどの窮状を踏まえ、同研究所が主催した。
 はじめに、東京福祉大学留学生教育センターの宮田繁幸特任教授が「官の役割」について講演。ドイツのグリュッタース文化相が三月に出した「私は、文化・クリエーティブ・メディア業界の方々の生活状況や創作環境を十分に顧慮し、皆さんを見殺しにするようなことはいたしません」という声明を紹介した上で、日本の公的支援について「文化芸術重視の姿勢が伝わってこない。伝統芸能は日本の文化芸術の源泉の重要な要素。『不要不急』どころか『必要不可欠』だ」とした。また、国主導で「エンジョイ・アート」キャンペーンを実施すべきだとして、「来年の予算編成に期待したい」と結んだ。
 続いて、同研究所の前原恵美無形文化財研究室長が登壇。業績低迷にコロナ禍が重なって廃業を表明した老舗の三味線メーカー、東京和楽器(東京都八王子市)について調査報告した。イベントなどの中止や延期といった数字に表れるものと異なり、伝統楽器製造に関わる人たちへの影響は実態がつかみにくいことから調査を行った。
 同社では、オリジナルの機械と操作技術、緻密な手作業の技術、これらが連動した製造工程になっており、チームとして三味線作りが行われているという。前原室長は「(伝統の)保存技術と伝統芸能は運命共同体」として、現状把握や継承の枠組みなどの重要性を指摘した。
 この後、実演家の発言が続いた。観世流シテ方能楽師で、能楽協会理事長の観世銕之丞(てつのじょう)は「社会にアピールしていかないと能楽の明日はないと考える。(コロナは)能のこれからの在り方を考え直すきっかけ」、ビデオ収録で参加した長唄三味線の今藤政太郎は「われわれの(三味線)文化は楽器屋さんとつくった。楽器屋さんへのリスペクトが基本」などと話した。

発言する観世銕之丞

ビデオ収録で参加した今藤政太郎

 製作者側からは、三味線や箏の糸などを製造している丸三ハシモト(滋賀県)の橋本英宗代表取締役がビデオ収録で参加、「(コロナは)産業自体がなくなってしまうくらいの出来事だが、次世代に仕事を残していくことに使命を感じる。そのために、製造、企画制作、実演家を含めたセーフティーネットが必要」と指摘した。
 「伝統芸能の道具ラボ」主宰でライターの田村民子さんは、能装束を手掛ける京都・西陣の「佐々木能衣装」の現状を報告。能装束の作り手は極めて少なく、春以降、能楽公演の中止で経営が悪化。経営が続かなくなると三十年後くらいには装束が足りなくなり、演能ができなくなる恐れもあるとした。
 出席者による座談会では、伝統芸能の今後について討論。「(実演家、製作者らが)つながる仕組みを作らないと先がない」「外国を一つのマーケットとして考えては」「知ってもらうための機会、社会との接点づくりをどうするかが大切」などの意見が出された。
 司会役の前原無形文化財研究室長は伝統芸能の未来について「キーワードは『社会性』。その力を付けることでアピールになり、普及に向かう。今日のフォーラムは、その第一歩になったのではないか」と締めくくった。
 ※九日から十一月三日まで、フォーラムの模様をユーチューブで配信予定。同研究所の公式サイトから。

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