BLACK LIVES MATTER(ブラック・ライヴズ・マター) 黒人たちの叛乱は何を問うのか

2020年10月4日 07時00分

◆運動の背景と蜂起の内情
[評]大場正明(評論家)

 五月二十五日に米ミネソタ州ミネアポリスで、黒人男性ジョージ・フロイドが警官に殺害された事件をきっかけに、ブラック・ライヴズ・マター(BLM)運動が再燃し、暴動にまで発展した。この現在進行形の事態に鋭く迫った本書の構成は、BLM運動を主題とした前半と蜂起の現場に焦点を当てた後半に大きく分けられる。
 前半では、人種差別を生んだ奴隷制と植民地主義、黒人の抵抗運動や暴動の歴史、白人ナショナリズム、黒人を下層階級にとどめて搾取しつづける資本主義、軍事化された警察や犯罪捜査での人種プロファイリング、人種や性などの社会的カテゴリーが差別や搾取にどう関連しあうかを考えるインターセクショナリティ論、日本人の立場、音楽とポピュラーカルチャーなど、BLM運動とその背景が圧倒的な情報量で多面的に掘り下げられる。
 これに対して後半は、民衆蜂起に様々な形で関わっている人々へのインタビューや現地報告からなる。前半との間に一線が引かれているのは、彼らが語るニューヨークやミネアポリスでの蜂起が、BLM運動によって引き起こされたわけではないからだ。影響を及ぼしたのはコロナ危機であり、誰も予想していなかった社会の急変が、「前代未聞の怒りの共振」を呼び込み、大規模な蜂起につながった。
 彼らは、自然発生的な蜂起がなければその後の抗議行動の拡大や占拠、記念碑的彫像の破壊や撤去といった運動の広がりはあり得ず、ふたつを切り離すことはできないと考える。だが、ニュース番組や選挙政治を目指すリベラル・民主党支持者は、善良な抗議者と悪(あ)しき抗議者を選別することで、叛乱(はんらん)の勢いを削(そ)ぎ鎮静化させようとする。そうなれば、事態の帰結は表面的な改革にとどまりかねない。
 非暴力直接行動を原則とするBLMが歴史や制度を根本から変革するためには、運動再燃の発火点となった蜂起という戦闘的行動をどう受け止めていくべきなのか。本書の後半からはそんな難しい問いが浮かび上がってくる。
(河出書房新社・1980円)
著者は米文学研究者の長澤唯史、文筆家の木澤佐登志、音楽ライターの二木信ら。

◆もう1冊 

A・デイヴィス著『監獄ビジネス グローバリズムと産獄複合体』(岩波書店)

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