自分を託す生き方提示 『推し、燃ゆ』 作家・宇佐見りんさん(21)

2020年10月4日 07時00分
 昨夏に文藝(ぶんげい)賞を受賞したデビュー作が、三島由紀夫賞にも選ばれた注目の書き手。二作目のテーマには「推し」を選んだ。「一推しのメンバー」の略語で、誰かに薦めたいほど応援するアイドルや俳優らを指す。「推しを推すことで生きる人たちの生き方を提示したかった。(世の中から)受容されていない部分を感じていたので」
 主人公の高校生あかりは勉強もできず、部屋には服やペットボトルが散乱する。生活はままならないが、一人の男性アイドルを推すことには全力を注ぎ込める。<あたしの生活の中心で絶対で、それだけは何をおいても明確だった。中心っていうか、背骨かな>。だがある日、彼が女性ファンを殴り「炎上」する。
 崩れていく日常の描写には「推しがすべて」の危うさが透ける。だが否定はしていない。「『人に依存するんじゃない』とか結構言われるじゃないですか。でも自分を託す生き方をせざるを得ない時期ってあると思うんです。自分を認められないけど、推している時は充実する。もちろん安全ではないけれど…」
 ファンが推しに望む関係性には「一方通行感があって興味があった」と話す。恋人や友達のような平等で相互的ではなく、見返りを求めない関係。他人に<不健康>と非難されても、あかりは意に介さない。「どんな関係でも、人って分かりきらないものだと思う。彼女が求める関係は相互的な関係の下に位置付けられるけれど、そうじゃないのではと」
 デビュー作『かか』では、十九歳の娘の視点で、心を病む母親への愛憎を独特の言葉遣いで描いた。今作と同じく、生きづらさを抱えながら生きる人の姿が痛々しいまでに浮かびあがる。「そこを書かないことには、自分の小説として出せないから。私の原動力」
 小学校の授業で小説に取り組んでから書くことに抵抗がなく、高校生のころは日々をノートにつづった。「孤独じゃなくなる感覚があった。書かずにいるには苦しかった」。今は都内の大学に通い、執筆する。
 取材は三島賞の選考日。「そわそわする」と笑っていた数時間後、史上最年少受賞となり、会見で抱負を述べた。「心の奥底に響くような、まやかしやごまかしのない、骨太な小説を書いていきたいです」。
河出書房新社・一五四〇円。
(世古紘子)

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