悩む人に力を与える 一貫して女性の心に寄り添う 山本美希(やまもと・みき)さん(マンガ作家・筑波大助教)

2020年10月3日 13時36分
 作品ごとに作風や手法を変えながら、一貫して女性の心の機微に寄り添っているマンガ作家の山本美希さん(33)。芸術性が高く、アート展への出品もする一方、筑波大芸術系助教として、「物語の画像表現」を追究。創作活動と研究、学生への指導を両立しながら、切実なテーマで意欲的な作品を生み出している。
 「小さい頃に読ませてもらえなかった分、大好きになった。親への反発もあったのかも」。母校であり、職場でもある筑波大の研究室で、マンガを描き始めたきっかけを笑いながら振り返った。
 マンガ禁止の家庭で育った。読めるようになったのは、小学校高学年。描くことも好きだったが、親の反応を考え、中学、高校では美術部で油絵に取り組んだ。大学へも洋画の専攻で進学したが、一年で現在自らが教えているビジュアルデザインの領域に移った。
 学ぶうちに、一枚の絵で完結する油絵と異なり、多くの絵を描いて物語を表現する方法に引かれる。「自分が言いたいことを形にするなら、これだと思った」
 卒業制作は、文字のないモノクロイラスト二百三十四枚。身体の変化に気持ちがついていかない、思春期の女子中学生の揺れる思いを鮮烈に描いた。これを基にした作品『爆弾にリボン』(三才ブックス)で単行本デビューし、「無声マンガ」として話題を呼んだ。
 タイトルは、その芸術が「爆弾のまわりに巻かれたリボン」だと評されたメキシコの画家フリーダ・カーロにちなむ。「女性が身体と内面に抱えている傷をはっきりと作品に表した人」として敬愛し、影響も受けている。
 大学院進学後に制作した『Sunny Sunny Ann!』(講談社)は、住居や家庭を持たずに車上生活を続ける女性のロードムービー的な物語。太いサインペンによる力強い描線も含めた独自性が評価され、第十七回手塚治虫文化賞新生賞を受賞した。
 次作『ハウアーユー?』(祥伝社)では、日本人の夫が失踪し、日常が壊れていく外国人妻の姿を隣人の女子中学生の視点から描き、「妻」「母」「娘」という役割を巡る女性の人生に迫った。巻末に作品解説も付け、各場面の描写の意図を説明。良いマンガの条件に「表現したい内容と手法との一致」を挙げていて、「絵の中にどんなメッセージやサインがあるのか。作り手側からの分析もあるといいと思った」と明かす。
 今年六月に出版した最新作『かしこくて勇気ある子ども』(リイド社)では、自身が子どもをもつことを想定した際の不安と向き合った。作中では、初めての出産を迎える夫婦が、生まれてくる子どもが「賢くて勇気にあふれた子」に育ってほしいと期待する。しかし、外国で賢くて勇気ある子どもが銃撃されるなど、世界は理不尽で残酷だ。その現実に気付いた母親は動揺し、混乱していく。
 ウェブサイトで連載したフルカラー作品で、心の動きなども色で表すよう工夫した。温かみのあるタッチは、何種類も試した色鉛筆によるものだ。「若い人に読んでほしいとの思いが強く、これまでより俯瞰(ふかん)した視点になった。学生に教えている経験が生きている」とは担当編集者の評。
 物語の終盤、疲弊した夫婦はともに、子どもたちへの希望が投影されたかのような幻影を見る。そこで二人は前向きな気持ちを取り戻し、明るい未来を感じさせて幕を閉じる。
 これまでは、物語の骨格を全て決めてから原稿化してきたが、今作は結末を構想時から変えた。当初は、幻影は見えず、現実と何とか折り合いをつける苦い終わり方だったという。
 希望が持てるラストにしたのは「連載中にも社会で子どもたちがつらい目に遭う事態が繰り返された」から。「簡単に社会は変わらないが、悩んでいる人にもっと力を与えられる作品にしたい」と考えた。
 アシスタントはおらず、全て一人での手描き。大学の仕事もあり、寡作とならざるを得ない。だからこそ、「自分にとっても、他の人にとっても大切だと思えるテーマを選んで描いていきたい」。 (清水祐樹)

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