1カ月で150人が街を去った 原発の廃炉が進むフランス

2020年10月4日 05時55分
<揺れる原発大国 フランスはいま(上)>

原発が停止した仏北東部フェッセンハイムで8月、分譲住宅を紹介する看板。市は新たな住民の呼び込みを目指すが、将来の展望は描けていない

 住民の姿がない表通りから外れると、新築の住宅が何戸も並ぶ。今年、国内最古となる1978年稼働の原発が廃炉へ向け完全停止した仏北東部フェッセンハイム。「街には医療機関も教育施設も、何でもある。不動産市場としても魅力はある」。逆境にもかかわらず、クロード・ブレンダー市長(61)はこう断言した。
 原発を運営するフランス電力(EDF)は6月29日、老朽化を理由にフェッセンハイム原発の運転を停止。強気な市長の姿勢とは裏腹に、1カ月間で原発関連産業の職員ら150人以上が街を去った。裏通りでごみを回収していた男性(57)は「もう地元の少年サッカーチームが2つもなくなった」と嘆く。

◆「原発がなくなれば、地域が死んでしまう」

仏北東部フェッセンハイムの農業地帯で8月、廃止を受けて解体を待つ原発

 フェッセンハイムはライン川を挟んでドイツに接する。60年代まで、人口1000人以下の貧しい農村だった。しかし70年代に始まった原発建設で人口は倍増、生み出した雇用は約2100人分に上った。
 EDFからの補助金も街を潤した。市年間予算430万ユーロ(約5億6000万円)の約3分の2に及ぶ。「原発なしに繁栄は考えられなかった。原発がなくなれば、地域が死んでしまう」と市長は憤る。
 しかし廃炉後の跡地利用の議論は進まない。仏政府とEDF、ドイツ側を含む周辺自治体は2019年2月、地域の活性化へ向けた協議会設立に合意したが、代表は1年半たっても空席のまま。そもそも、原発解体の手引すらできていない。
 仏政府は先月、新型コロナからの経済再建策として、原子力産業への支援を表明した。各地の原発解体で出る金属部品を除染、再利用する工場の計画にも前向きで、フェッセンハイムに建設する議論がある。
 ブレンダー市長も計画に前向きだが、EDFが実際に建設するか決めるのは23年の予定だ。安全性を巡り長年にわたり原発閉鎖を求めてきたドイツ側からも、既に汚染への懸念から反対の声が上がる。飲食業アンジェリークさん(41)は「将来をイメージできないまま、さらに人が減りそうで怖い」と打ち明けた。

8月、新規住民の獲得へフェッセンハイムで建設が進む総合診療所=竹田佳彦撮影

◆補助金で「暮らしやすい街」に 新住民呼び込めるか

 見通しが立たない中、市は停止後も10年間保証されているEDFの補助金を使い、街の整備を進める。周辺自治体にはない総合診療所を充実させ、市有地を格安で提供。暮らしやすい街として、住民を呼び込む計画だ。30年までに現在2400人の人口の25%増を目指す。
 「閉鎖も跡地利用も、市に決定権はない」と無力感を示すブレンダー市長は、こう訴える。「街が生き残るには、人が住み続ける方法を考えるしかない。主要産業をなくした先、地域をどうするのか。国も電力会社も、向き合ってほしい」
 全電力の7割超を原子力発電が占める世界最大の原発依存国フランスで、原発を取り巻く環境が揺れている。福島第一原発事故以降、政府は「減原発」の方針を掲げ、今年6月には国内最古の原発を停止した。しかし、「廃炉後」の展望は見えず、近年の猛暑や新型コロナウイルスの影響で、温暖化対策や経済対策としての再評価も起きている。原発大国のいまを追った。(フェッセンハイムで、竹田佳彦、写真も)

フランスの原発 仏政府は1970年代のオイルショックを教訓に、エネルギーの安全保障策として原発の開発を本格化。2020年9月時点で全国に56基、関連産業を含めて22万人が働く。全発電量に占める原発の割合は72%で世界最大。しかし福島第一原発事故後の12年に当選したオランド前大統領は、25年までに50%へ引き下げを表明。後任のマクロン大統領は期限を35年までに延長し、フェッセンハイムの2基を含む14基の廃炉を決めた。

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