核兵器禁止条約 日本の立ち位置は? 来年初めにも発効、識者に聞く

2020年10月6日 05時50分
 国連総会で核兵器なき世界を目指す高官級会合が開かれ、核兵器禁止条約の批准国・地域が、今月中にも発効に必要な50に達し、来年初めにも発効する見通しとなった。日本政府は米国の「核の傘」に依存していることを理由に、条約参加に消極的な立場を変えようとしない。唯一の戦争被爆国として、核兵器の非人道性を世界に訴えてきた日本がどのように対応すべきか。国際政治や国際法に詳しい識者に聞いた。(柚木まり)

◆「核の傘」に依存、核廃絶に矛盾<政策研究大学院大・田中明彦学長>

 ―日本政府は米国の核の傘を理由に、条約に参加しないことを明言している。

政策研究大学院大の田中明彦学長=提供写真

 「日本は唯一の戦争被爆国という立場と、安全保障を米国の『核の傘』に依存する中で、どのように振る舞うかという問題を抱えている。核禁条約で世界の世論を動かすことも一つのやり方だが、発効したとしても中国とロシアが核兵器をゼロにすることはないだろう」
 ―核兵器廃絶は世界が目指すゴールだ。
 「唯一の戦争被爆国である立場が核廃絶の動きに道義的な力を与えていることは間違いないが、無理にでも相手を動かせるほど強くない。日本の安全保障政策の根幹は(核兵器により他国の核兵器使用を抑える)核抑止の論理に依存しており、米国にただちに核兵器を放棄せよとは言えない」
 ―条約への参加の是非について、国会などでもっと議論が必要ではないか。
 「多くの政治家が議論をしたくないと思っているのではないか。中ロ、北朝鮮まで核兵器を開発しているとされ、核廃絶を今の段階で求めることは非現実的だという議論になる可能性もある。日本国民が理想とする核廃絶に対して、否定的な議論をしたくないということかもしれない。つまりは相当曖昧な態度だ」
 ―なぜ曖昧な態度をとり続けるのか。
 「メリットがあるとすれば、現状で世界の国から核兵器を廃絶させることは困難だが、最終的な目標として核のない世界が良いという点ではないか。究極的な道義性を、まだあきらめていないという意味があるのだろう」
 ―各種世論調査では、7割以上の国民が核禁条約への参加を支持している。
 「政治家がどう判断するか。日本は核兵器を持たないのだから、仮に条約に加盟して、その後も継続して米国の核の傘で守ってもらうという選択もないわけではない。だが、それは道義的には矛盾していると言われるかもしれない」

 たなか・あきひこ 1954年、埼玉県生まれ。米マサチューセッツ工科大大学院卒(政治学Ph.D.取得)。専門は国際政治理論。東京大東洋文化研究所所長、国際協力機構(JICA)理事長など歴任。著書に「ポストモダンの『近代』」(中央公論新社)など。

◆核兵器ない安保条約に変容を<明治大・山田寿則兼任講師>

 ―日本政府は核禁条約参加に消極的だ。

明治大の山田寿則兼任講師=提供写真

 「米国の核の傘への依存は、あくまで政治的な合意にすぎない。日米安全保障条約は核兵器について一切明記しておらず、日本が核禁条約に参加したからと言って、ただちに安保条約に違反しない。安保条約に基づき運用を定めた日米ガイドラインは、日本が米国の核に依存することを示すが、法的な権利義務は生じない」
 ―日本の核禁条約参加に障害はあるのか。
 「核禁条約は、核兵器の使用や核による威嚇、また他国による核使用・威嚇への援助を禁じる。日本は米国と核兵器の協議を行っており、日本の防衛のために核兵器使用を求め、その環境を整えるというようなことは条約上は違反になる。核禁条約に署名、批准するならば、核兵器への依存を見直さなければならない」
 ―日米安保条約を解消しなければならないのか。
 「そうではない。核兵器のない安保条約に変容させていく必要がある。それは政治的な判断であり、政府は今取るべき道ではないと考えているのだろう」
 ―日本は唯一の戦争被爆国として、核廃絶の議論を主導したいはずだが。
 「日本は原爆被害の実相を普及し非人道性を伝える一方で、現実的には米国の核に依存する股裂き状態にある。核兵器が使われたらどうなるか、あるいは核抑止は必要だ、という意見に向き合った骨太の議論をすべきだ。核廃絶は長期的な目標で、達成までの間をどうつないでいくかという議論も欠かせない」
 ―核禁条約が年明けにも発効する情勢だ。
 「国際法として確かなものになり、社会的に核兵器が悪いものであると知らしめることによって禁止を強め、廃絶につなげていく。日本が核抑止に依存する現状から脱却し、核のない北東アジア、世界に向けてどう進んでいくか。外交の図を大きく描くことも必要ではないか」

 やまだ・としのり 1965年、富山県生まれ。明治大大学院博士後期課程単位取得退学。専門は国際法。公益財団法人政治経済研究所主任研究員、国際反核法律家協会理事。著書に「核抑止の理論」(日本評論社)、「核不拡散から核廃絶へ」(同)など。

 核兵器禁止条約 2017年に国連で122カ国・地域の賛成で採択された。核兵器の製造や実験、保有、使用だけでなく、使用による威嚇も禁じる。核兵器使用による被害者への援助も定める。核拡散防止条約(NPT)で核保有が認められた米英仏中ロの5カ国のほか、米国の「核の傘」に入る日本などは反対の立場。これまでに46カ国・地域が批准。批准国・地域が50に達してから90日後に発効し、発効後1年以内に締約国会議が開かれる。

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