出会いから40年 元教授が気に掛けるホームレス男性は今

2020年10月6日 05時58分
男性が過ごしていた歩道橋下のスペース。宿泊所に入所後、おにぎりなどが置かれるようになった=東京都北区で

男性が過ごしていた歩道橋下のスペース。宿泊所に入所後、おにぎりなどが置かれるようになった=東京都北区で

  • 男性が過ごしていた歩道橋下のスペース。宿泊所に入所後、おにぎりなどが置かれるようになった=東京都北区で
  • ホームレスだった男性の近況報告を並べる川名はつ子さん=東京都北区で
 東京都北区の元大学教授川名はつ子さん(72)は40年以上、自宅近くにいるホームレス(路上生活者)の男性(68)の身を案じ、声を掛けてきた。徐々に心を開いた男性は、川名さんの手助けで昨年、区内の無料低額宿泊所に入所した。川名さんは宿泊所訪問を続け、その後を気に掛ける他の住民らのため、男性がいた路上に近況報告を掲示している。

◆心を開いた男性はペンを取り…

 川名さんが男性を初めて見たのは現在の住居に引っ越してきた1979年ごろ。ポロシャツを着てスニーカーを履き、住宅街の植え込みの縁に腰掛けたり、寝転んだりしていた。荷物はかばんが1つか2つほど。
 「こんばんは」「話を聞かせてください」と声を掛け、スーパーで買った弁当や防寒具を渡したことも。「暑い日も寒い日もあるのに放っておけなかった。近くで亡くなったホームレスもいた」
 当初は話し掛けても口を閉ざし「嫌そうな表情で立ち去ってしまった」。2、3年ほど前「はい」か「いいえ」で答えられる質問をしてみると、男性はうなずき、首を振るように。より詳細に伝えたくなったのか川名さんの手からペンを取り、筆談が始まった。

◆私以外にも応援団がいた

 名前や家族構成、出身地。身元を少しずつ明かした。最初に見た時は20代だったと分かった。10代後半に高校を中退後、家出し、さまよっていたようだ。川名さんの提案で昨年6月ごろから生活保護を利用し、無料低額宿泊所で暮らすように。すると男性がいた場所におにぎりや衣類が置かれた。「私以外にも10人以上の応援団がいて、行き先を心配していたんです」
 男性の了承を得て、宿泊所の生活の様子を「便り」としてつづり、昨年7月から、居場所だった路上近くに掲示。便りは35回を数える。「元気な顔をまた見たい」といった住民のメッセージが便りに張り付けられてあることも。川名さんはそれを男性に読み聞かせている。
 便りを読むという近所の40代女性は「男性は高齢になり、歩くのも大変そうだった。施設に落ち着き、安心している。川名さんのような支援はなかなかできない」とたたえる。

◆声をかけ続けて40年、ついに

 川名さんは自らを「困っている人に目を背けられない性分」と語る。2003年から早稲田大学人間科学学術院で、保護者の養育が難しい障害のある子どもたちへの支援を専門に准教授、教授を務めた。昨年退職し、今夏、北区内に子どもたちの交流スペースも開いた。
 男性は最近、声を発するようになった。感情こそ言葉にしないが、くしゃっとした笑顔を見せる。川名さんは、ほほ笑む。「心を開いてくれたのかな」(中村真暁)

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