昨年の台風19号 被災の経験を報告書に 大子の介護施設、情報共有など教訓

2020年10月10日 07時26分

台風19号の被災状況や職員の証言などを冊子にまとめた安達栄治郎施設長=いずれも大子町で

 昨年十月に台風19号が直撃し十二日で一年になるのを前に、久慈川などが氾濫した大子町の介護老人保健施設「やすらぎ」が、当時の被災状況などを克明に記した報告書と職員の証言集をまとめた。やすらぎは九十五センチの床上浸水に遭いながら、施設利用者の高齢者らを早期に二階に避難させ、死傷者を出さなかった。備蓄や情報共有などの教訓を同様の施設で役立ててもらうことを期待する。(水谷エリナ)
 報告書はA4判で三十七ページ。それによると、昨年十月十二日の午後二時から約一時間半かけて、一階の利用者三十七人を二階に移動させる「垂直避難」をした。午後十一時ごろ、施設内に水が流れ込み始め、停電も発生。浸水が始まってからの垂直避難では間に合わず、命の危険性もあった。
 台風通過後も、利用者の健康維持が課題だった。電力が戻るまで約一週間かかり、九十二人が密集した状態で、二階で過ごした。熱中症やインフルエンザなどのリスクが低い時期だったこともあり、全員無事で過ごすことができた。
 報告書は死傷者を出さずに済んだ背景について、早期避難とともに「季節が初秋で自然な換気によって居住区内の環境温度を維持することができ、健康被害を回避できた」と指摘した。
 約五カ月かけて復旧するまでの過程や利用者に提供した非常食、被災した備品などを事細かに記載。まとめでは、屋上に非常時に利用できる太陽光発電や、舟艇などによる避難のための非常口を設置することを提言している。
 安達栄治郎施設長(70)は「たまたま幸運な状態が続いた」とも振り返る。施設の避難計画では、近隣の学校が避難先になっているが、人手も時間も必要で、スムーズに避難できるとは限らない。「利用者の避難所は施設しかないことを、最後に提言として書き加えたい」とし、早くも改訂に取り掛かっている。
 安達さんは「他にも被災した施設はあるのに、参考にできるものが見つからなかった。災害時に何を押さえておけばいいのかが見えてくると思うので、同じような報告書がどんどん出てきてくれれば」と話す。
 報告書と証言集は施設のホームページでお試し版を公開し、希望者に完全版を提供する。年内に報告書を改訂し、自由に利用できるようにすることを検討している。

◆「肩まで水」 職員41人証言集

台風通過後の施設内の様子。いすなどが倒れ、床には泥水がたまっている=昨年10月13日(安達さん提供)

 やすらぎがまとめた証言集では、職員四十一人が台風前後の様子や被災から得た教訓などを伝えている。肩くらいまで水に漬かりながら施設にたどり着き、非常階段を使い二階から施設に入ったことなど緊迫した様子が記されている。
 夜勤だった介護士の女性は「一階から使えるものや食品を二階へ上げる作業の途中、洗濯室からドアを押すようにしてさらに大量の水が施設内に入ってきた。膝下くらいまで埋まってしまい、危険なため作業を止め二階へ戻った」とした。
 十二日深夜、看護師の女性は水かさが増し、フェンスをつかみながら施設に向かった。「やすらぎに着くと、さらに水が増えた。肩くらいまで汚染水がついた。非常階段から二階に上がり、中に入るとすでに停電になっていた」
 十三日午前四時ごろに駆けつけた介護士の男性は「外や一階が水浸しになり電気や水も止まっていて、普段のやすらぎとは全然違う場所になっていた。机やいす、冷蔵庫などが倒れ、相当な勢いで水がきていたのが分かる」としている。
 十三日の朝に来た相談員の女性は「通常の通勤ルートは通行止めで進めず、別ルートで向かったが、それも土砂崩れで通行できず。いつも二十五分の通勤時間だが、到着まで二時間かかった」と記した。
 朝から清掃業務に当たった看護師の女性は「断水と停電の中、汚泥をかき出すが何時間やっても、汚泥は床を埋め尽くしていく状態」とした。
 証言集では、施設の状況を全職員で共有▽自宅に戻れる利用者は避難させる▽頭につけられる非常灯や電池などを備蓄する、なども提言されている。

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