労働者が出資、運営する「協同労働」 法案成立へ

2020年10月11日 05時50分
 働く人が自ら出資し、運営にも携わる「協同労働」という新たな働き方が実現しようとしている。協同労働を可能にする法案が、26日召集の臨時国会で成立する見通しだ。新型コロナウイルスの影響で廃業や雇い止めも相次ぐ中、労働者が自ら仕事を創り、生き生きと働ける新たな選択肢として注目されそうだ。(坂田奈央、石川智規)
 協同労働の考え方は、現代社会で働く多くの人たちが、意欲や能力に見合った就労の機会を与えられず、失職する恐怖や疎外感にも悩まされているという問題意識に根ざしている。地域社会の要望に沿った、やりがいを感じられる仕事を住民が自ら創り、主体的に働ける仕組みとして、協同労働が考え出された。
 協同労働を担う組織「労働者協同組合」を設立するための規則を定めた労働者協同組合法案が、与野党全党・全会派の賛同による議員立法として、先の通常国会に提出された。臨時国会で審議されれば、全会一致で成立する見通しだ。
 法案は、労働者協組は
(1)組合員が出資
(2)組合員の意見を反映
(3)組合員が組合の事業に従事
という3原則に基づいて運営されることを規定。労働契約も締結するとし、最低賃金などが守られるようにした。
 これに似た組織として、労働者自らが出資・運営する企業組合や、NPO法人があるが、労働者協組は、それらに比べてさまざまな面で有利に設計されている。
 企業組合を設立するには、都道府県知事の認可が必要なため手続きに時間がかかるが、労働者協組は認可は不要。NPO法人は組合員による出資が認められず、手がける事業も福祉、観光振興など20分野に限られているが、労働者協組は、組合員が出資して運営に参加することで労働条件などを自ら決められる。労働者派遣事業以外、どんな業種の仕事もできる。
 関係者がまず念頭に置くのは、地域の需要があるのに担い手がいない事業への参入だ。
(1)後継者不在で廃業を考えている中小企業の仕事を、従業員が労働者協組を設立して引き継ぐ
(2)訪問介護や学童保育を、意欲のある人たちが労働者協組を立ち上げて担う―などのケースが想定される。
 ワーカーズコープの法制化に取り組んできた日本労働者協同組合連合会(東京都)の古村伸宏理事長は「地域に必要な事業に関わり、そこで暮らすための担い手を増やしていきたい」と話している。

◆労働者協同組合法案のポイント

▽組合員が自ら出資し、それぞれの意見を反映して事業を行い、自ら働くことを基本原理とする「労働者協同組合」を規定。多様な就労の機会を創出し、地域の需要に応じた事業を促進
▽組合は営利を目的に事業を行ってはならない
▽組合の設立は準則主義(官庁の認可は不要)。3人以上の発起人を要する
▽組合は組合員と労働契約を締結しなければならない
▽事業制限はない。ただし労働者派遣事業を行うことはできない
▽一部を除き、公布後2年以内に施行
▽現存する企業組合またはNPO法人は、施行後3年以内に総会の議決を経て組織を変更し、組合になることができる

◆与野党全会派で議員立法成立、立法府本来の姿を見せる

 労働者協同組合法案を制定する動きは、1990年代にスタート。推進団体の要望を受け、与野党が長い年月をかけて検討を重ね、全会派が一致して議員立法を成立させるところまでこぎ着けた。立法府が役割を果たした意味は大きい。
 国会議員は、政府が国会に提出した法案を審議するだけでなく、自ら立案した議員立法を提出し成立させることができる。官僚と違って選挙で選ばれ、国民に近い位置にいる国会議員に課せられた大切な役割だ。
 しかし実際には、国会で成立する法案は政府提出法案が中心。昨年1年間に成立したのは政府提出法案71本に対し、議員立法は23本だけだった。限られた会期の中で、政府提出法案の審議が優先されがちなことなどが原因だ。
 協同労働法案では、格差社会で厳しい環境に置かれてきた労働者のために、与野党が立場を超えて協力。137条からなる法案を完成させた。国会関係者は、100条を超える規模の法案が議員立法で成立すること自体珍しいと指摘する。
 政府の目が行き届かない分野は多い。小さな声に耳をすませ、より良い社会をつくるために、国民生活に資する法案を国会議員自ら立案することは、立法府本来のあり方だ。新型コロナウイルスで多くの国民が健康や仕事を脅かされている今は特に、できることはたくさんあるはずだ。(坂田奈央)

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