「赤い州」が紫に アリゾナ州、共和党盤石のはずが…移民増え激戦<米大統領選ルポ>

2020年10月13日 06時00分
 10月でも気温40度を超す米西部アリゾナ州の州都フェニックス郊外。白人が多く住む地域のスーパー駐車場の仮設テントに、レジ待ちの列があった。客たちが手にするのはトランプ米大統領(74)の名前入りの帽子、靴下、バッジ…。銃所持に寛容な同氏が機関銃を構えるTシャツまである。

米西部アリゾナ州フェニックス郊外で、トランプ大統領のグッズを買い求める客たち

◆民主党に敗れたのは一度だけ

 「売れ行きは好調。男女関係なく近所のみんなが買っていくよ」。選挙期間中、店を出しているという若い夫婦は満足げに言った。直前にトランプ氏の新型コロナウイルス感染が明らかになったものの、気にするそぶりもない。
 同州は4年前の前回選、トランプ氏が制し、1952年以降、共和党候補が民主党候補に敗れたのは一度だけ。保守的で共和党のイメージカラー通りの「赤い州」だった。
 それが今、政治専門サイト「リアル・クリア・ポリティクス」の全米支持率平均で、民主党のバイデン前副大統領(77)がトランプ氏を2.7ポイント上回る。勝機を見いだしたバイデン氏は8日、副大統領候補のハリス上院議員(55)とともに同州に入った。危機感を強めるトランプ陣営もペンス副大統領(61)が乗り込み、フェニックスでニアミスした。
 激戦となった理由は何か。その一端は、仮設テントから車で砂漠を2時間半、メキシコとの国境の町ノガレスで見えてきた。
  11月3日の投開票まで3週間となった米大統領選は、激戦州でなお先の読めない戦いが続く。その一つ、アリゾナ州では、増加するヒスパニック系移民らを中心に反トランプ氏のうねりが起こっている。地殻変動の現場を歩いた。

米西部アリゾナ州ノガレスで、国境の壁越しにメキシコ側の知人と話す男性

◆分断された家族が壁越しに交流

 「悪夢だよ。あそこの壁を見て」
 メキシコとの国境の町、米アリゾナ州ノガレス。長年ここで服飾店を営み、自身もメキシコにルーツを持つサンドラ・コリー(61)さんがため息をついた。「週末になると、分断された家族や親族が両側にいすを置き、壁越しに交流しなきゃいけない」

米西部アリゾナ州ノガレスで、有刺鉄線がはりめぐらされた国境の壁

 高さ4メートルほどの壁は以前からあったが、「メキシコ人が麻薬や犯罪を持ってくる」と唱えるトランプ大統領の就任後、上部に鋭い有刺鉄線が巻かれ、入国審査も強化された。新型コロナウイルス流行後は一切の入国が禁止に。壁の両側に住むヒスパニック系住民の往来でにぎわった街は沈み、コリーさんの店も9割の客を失った。
 壁のフェンスの穴から、お札を丸めてメキシコ側の孫に現金を渡しているという男性(63)は「人種差別主義者のトランプが嫌いだ。私は屋根葺き職人として米国で30年も働いてきたのに」と吐き捨てた。

◆米国の未来の姿

 トランプ氏への反発は都市部でも強まっている。州都フェニックスを中心にバイデン前副大統領の応援運動に加わるイメルダ・オジェダさん(35)は16年前、親とともにメキシコから移住。苦学して社会福祉士になった。「コロナは医療保険に入りにくい移民社会を直撃し、政権への不満はさらに増大した。今回、アリゾナは(民主党色の)青との中間、紫の州になった」
 人種問題や移民政策で国民の分断をあおり、支持基盤固めを図ってきたトランプ氏。だが、北アリゾナ大学のスティーブン・ペレス准教授は「一部の政治家がいくら差別的な言動をしても、ヒスパニック系が増え、政治的な影響力を増していく流れは変わらないだろう」と指摘する。

 

 米国では今後も移民の増加が続き、2040年代半ばに現在6割を占める白人の人口割合は5割を切ると予測される。過去20年間でヒスパニック系が人口の4分の1から3分の1に増加したアリゾナは、米国の未来の姿でもある。
 かつて実業家トランプ氏の著作を愛読し、アリゾナで事業の成功を収めたメキシコ出身のデイビッド・カリゾーサさん(36)は言う。「仲間にも機会の平等を重視する共和党の支持者はいた。だが、トランプ氏は移民への攻撃を繰り返し、われわれとの間に壁をつくってしまった」(杉藤貴浩、写真も)

 

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