<ふくしまの10年・信金の心意気「金は銀より上」>(1)帰りなん いざ

2020年10月13日 07時49分

顧客からの電話に応対する賀沢大輔さん=南相馬市のあぶくま信金本店で

 福島県南相馬市原町区にあぶくま信用金庫本店がある。賀沢大輔さん(31)は本店営業部融資課係長。この席に座るまでにはドラマがあった。
 二〇一一年三月十一日、同市出身で神奈川大学に進学した賀沢さんが、信金の入庫式に備えて散髪をしているとき、東日本大震災が起きた。横浜から実家に帰ると、故郷は一変していた。入庫式前日の同三十一日、内定が取り消された。
 「周りを見れば何があってもしょうがないと思っていた」と賀沢さんは話す。
 五月になって、あぶくま信金から「東京の城南信用金庫に就職できるかもしれない」と連絡があった。「長男なので故郷に」と考えていたのだが、六月一日、城南信金マンになった。
 いつかは故郷に帰ろうという考えは、就職し結婚しても変わらなかった。ただ「恩返しをし、もったいないと言われるぐらいになってから辞めようと考えた」。あぶくま信金で採用担当だった渡辺健一さん(64)=現・専務理事=からはその後も時々、電話があった。
 一昨年、父親が病気で倒れ、帰郷を決めた。城南信金はあぶくま信金に打診してくれた。渡辺さんは「来い」と言ってくれた。昨年春、転職。今年、係長に昇進した。故郷の役に立っている実感があるという。
 城南信金は被災地の信金で内定を取り消された学生十人を採用した。川本恭治理事長は「信用金庫の使命は、困った人を助けることですから」と話す。
 城南信金のホームページに一九五一年に信用金庫が誕生した時のエピソードが紹介されている。「当時の舟山正吉大蔵省銀行局長から『金は銀よりも上』と、政府機関しか使っていなかった金庫という名称を使うことを許された」。銀はもちろん、銀行である。(井上能行・初代福島特別支局長が担当します)
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